目次
はじめに
両親が亡くなり、住む予定もない空き家を相続する。近年、全国でこうしたケースが増えています。
空き家にかかる税金や手続きに不安を感じながらも、空き家のまま放置している方も多いのではないでしょうか。
しかし空き家をそのままにしておくと、管理上の問題だけでなく、固定資産税や特定空き家のリスクも生じます。とはいえ、無償での譲渡や寄付にも税務や法的なハードルがあるのが実情です。
この記事では、空き家を第三者に譲渡する場合の手続きや関係する税金について詳しく解説します。
第1章 空き家の譲渡とは?売却との違い
本来、不動産のやり取りにおいて譲渡とは、有償・無償を問わず所有権を移すこと全般を指します。
売却は金銭のやり取りを伴う譲渡、すなわち有償譲渡です。一方、無償譲渡は贈与や寄付のことを指します。
しかし、一般的に譲渡というと、無償を想起する人が多いのではないでしょうか。本記事では、この章以降「譲渡」を贈与に限って解説していきます。
第2章 空き家を譲渡するまでの流れ
空き家を無償で譲渡するには、いくつかの手順を踏む必要があります。
特に第三者への譲渡の場合、書面での契約や登記申請などの法的手続きを適切に行うことが大切です。後々のトラブルを避けるためにも、正確に進めなければなりません。
ここでは、空き家譲渡の流れを解説していきます。スムーズに手続きを行うためにも、ぜひ参考にしてください。
STEP① 相続登記を完了する
空き家が相続物件の場合は、所有者が相続人に変わったことを登記に反映させる相続登記が必要です。これを行わなければ、その後の譲渡や登記手続きが進められません。
2024年から相続登記は義務化され、怠ると過料が科される場合もあります。
司法書士への依頼も視野に入れながら、必要書類を準備しておきましょう。これが空き家譲渡の第一歩です。
STEP② 空き家の状況を把握する
次に行うのは、空き家の現状把握です。建物の劣化具合や修繕の必要性、土地の境界などを確認しておきましょう。
特に譲渡先への説明のためにも、写真やメモを残して現地の状況を詳しく説明できるようにしておくと安心です。
老朽化が進んでいる場合は、譲渡先にとって負担になる可能性もあるため、その情報は率直に共有することが大切です。
STEP③ 贈与契約書を作成する
贈与は口約束でも成立しますが、譲渡契約の際には無償譲渡契約書を作成し、双方の合意を確かめておくことも大切です。
口約束など書面によらない贈与では、当事者によって解除できると民法で定められています(民法第550条)。空き家を譲渡する約束をしていたのに、契約書を作っていなかったために譲渡直前で断られた、などのトラブルもあります。
こういったトラブルを防ぐためにも、譲与する間柄を問わず契約書は必要です。
契約書には、以下のような情報を記載しましょう。
- 贈与者と受贈者の氏名・住所
- 贈与対象不動産の詳細(所在地、地番、地積など)
- 所有権移転登記に関する合意事項
書面に残しておけば、後から内容を確認しやすくなり、税務署などの第三者にも証明しやすくなります。
契約書の書式は法務局のWebサイトに掲載されており、自分で作成可能です。
参考:売買契約書の例/法務局
しかし、法的安定を求めるなら、間違いなく作成する必要があります。契約書の作成は、司法書士など専門家に依頼するのをおすすめします。
STEP④ 必要書類を準備する
空き家を譲渡する際には、譲渡する側と譲渡される側の双方で必要な書類があります。以下を確認しましょう。
【譲渡する側】
- 登記原因証明情報(契約書など)
- 登記済権利証または登記識別情報
- 印鑑証明書(3ヶ月以内)
- 固定資産評価証明書
- 住民票(住所変更等がある場合のみ)
- 本人確認書類
【譲渡される側】
- 住民票
- 本人確認書類
上記の書類は、登記申請に使用します。
STEP⑤ 所有権移転登記を申請する
契約を締結して書類の準備が整ったら、法務局で所有権移転登記を行います。
登記は自分で行うこともできますが、記載ミスや不備があると受理されないため、司法書士に依頼するのが一般的です。なお、登記費用として以下の金額がかかります。
- 登録免許税 固定資産税評価額の2%
- 司法書士への報酬 5~10万円
例えば無償譲渡する物件の固定資産税評価額が1,200万円の場合、登録免許税は24万円かかります。登記費用は司法書士への報酬と合わせて、35万円程度は必要ということです。
登記費用を負担するのは一般的に譲渡される側が多いのですが、特に法律上の決まりはありません。
登記が完了すると、譲受人は該当の不動産を自由に使うことが可能となります。また、この手続きによって空き家を受け取った側が贈与税や不動産取得税などの申告も行えるようになります。固定資産税の納付義務も新しい所有者に移るため、登記申告は速やかに済ませましょう。
第3章 空き家を譲渡する際にかかる税金
空き家を無償で譲渡する際、収益が発生しないので税金がかからないというのは間違いです。実は双方にいくつかの税金がかかる可能性があります。
譲渡する側に支払う可能性があるのは、以下の税金です。
- みなし譲渡所得税(法人に対してのみ)
- 固定資産税・都市計画税
みなし譲渡所得税とは、物件を無償譲渡しても時価で売却したものとして課税される所得税です。ただし、譲渡先が法人の場合にのみ適用されます。個人間での譲渡の場合は課税されません。
また、固定資産税と都市計画税は、贈与を行った年度のものについては譲渡する側が払う義務があります。ただし、贈与契約書で負担について取り決めをすることは可能です。
一方、譲渡先にかかる税金は以下の通りです。
- 贈与税
- 不動産取得税
- 登録免許税
まず代表的なのが贈与税です。不動産の評価額によっては、数百万円単位の贈与税が発生することもあります。譲渡された側がその税負担に耐えられるかどうか、事前に確認しておきましょう。
例えば第三者に譲渡するとして、空き家の固定資産税評価額が700万円だった場合、基礎控除額110万円を差し引いた590万円に対して課税されます。
贈与税は累進課税であり、具体的な税率(一般贈与財産用)は以下のとおりです。(2025年9月現在)
| 課税される贈与額 | 税率 | 控除額 | 
|---|---|---|
| 200万円以下 | 10% | 0円 | 
| 300万円以下 | 15% | 10万円 | 
| 400万円以下 | 20% | 25万円 | 
| 600万円以下 | 30% | 65万円 | 
| 1,000万円以下 | 40% | 125万円 | 
| 1,500万円以下 | 45% | 175万円 | 
| 3,000万円以下 | 50% | 250万円 | 
| 3,000万円未満 | 55% | 400万円 | 
参考:No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)/国税庁
今回のケースでは30%が適用され、控除額を引くと贈与税は以下のように計算できます。
590万円×30%ー65万円=177万円ー65万円=112万円
ただし18才以上の子や孫が両親や祖父母から譲渡された場合は、「特例財産贈与用」の税率が適用されるので注意しましょう。
不動産取得税は不動産の取得に対して課される税で、評価額に税額(4%)をかけて計算されます。ただし、2027年3月31日までに譲渡された物件については軽減措置で3%の適用です。また、2006年1月1日から2027年3月31日までに取得された不動産の評価額は2分の1の金額で計算されます。(地方税法第73条の21)(地方税法附則第11条の5第1項))
このように、土地や家屋に軽減措置が設けられているものもあるので、見落とさないよう注意が必要です。
その他、前述のとおり登録免許税は譲渡された側が負担するケースが多くみられます。ただし、双方の話し合いや事情によっては譲渡する側が負担することもあります。
このように、譲渡といえども関わる税金は多いものです。税金のトラブルを防ぐためにも、譲渡前に専門家へ相談することをおすすめします。
第4章 空き家の譲渡先を探す方法5つ
空き家を無償で譲りたいと思っても、譲渡先に悩む方は少なくありません。ここでは、譲渡先の探し方を5つご紹介します。
4-1 親族や知人・近隣住民に打診する
まずは身近な人に声をかけてみましょう。親族や知人であれば、信頼関係があり意思疎通もしやすいため話が進みやすいメリットがあります。
また、隣の居住している人に打診するのも1つの方法です。駐車スペースや物置に活用できるため、引き受けてもらえる例も少なくありません。
知り合いに尋ねてみるのは良い方法ですが、前提として必ず法的な手続きを踏むことを忘れないようにしてください。たとえ親しい間柄でも、後々のトラブル回避のために贈与契約書の作成は必ず行いましょう。
4-2 空き家バンクやマッチングアプリを利用する
譲渡を検討しているなら、自治体が運営する空き家バンクや民間のマッチングアプリを活用する方法もあります。
これらのサービスでは、空き家の利用を希望する個人や団体が登録しており、マッチングが成立すれば譲渡先を見つけやすくなります。
空き家バンクについて詳しく知りたい方は、こちらの記事も参考にしてください。
4-3 不動産会社に譲渡する
不動産会社には売却を依頼するだけでなく、空き家を引き受ってもらえる場合もあります。空き家の状態や立地が悪く、売却では買い手が付きそうにない場合でも、家屋を解体後に土地だけで売却できる可能性があるためです。
ただし解体費用との兼ね合いもあり、断られる可能性はあります。
4-4 法人への寄付を検討する
空き家を地域で活用したい法人やNPO団体に寄付するという方法もあります。
特に空き家活用に関心のある法人は、地域貢献や事業の一環として受け入れてくれる可能性があるでしょう。
ただし、前述のように法人への譲渡は無償でもみなし譲渡所得課税の対象になる場合があり、税務上の注意が必要です。
寄付前には税理士と相談し、負担を最小限に抑える方法を検討しましょう。
4-5 相続土地国庫帰属制度(土地のみ)を利用する
どうしても譲渡先が見つからない場合は、相続土地国庫帰属制度の利用も検討できます。
これは一定の要件を満たせば、土地を国に引き取ってもらえる制度です。ただし対象は土地のみであり、建物が残っている場合は利用できません。
さらに、境界が明確でない土地や、担保権・賃借権がある土地は対象外となるなど、申請には厳しい条件が課せられています。
参考:相続土地国庫帰属制度の概要/法務省
費用もかかるため、最終手段としての位置付けです。しかし、どうしても空き家を手放したいという方には、検討の価値があります。
第5章 空き家を譲渡する以外の方法は?
空き家を無償で譲渡する以外にも、活用や売却といった選択肢があります。
安易に譲渡を選ぶと、損になるかもしれません。空き家や土地の将来的な資産価値や収益の可能性、税制上のメリットなどを考慮して最適な方法を選びましょう。
5-1 売却
買い手が見つかれば、空き家を有償で売却できます。ただし個人的に買い手を探すのは難しいため、不動産会社と仲介あるいは売買契約を結ぶか空き家バンクやマッチングアプリに登録する必要があります。
売却益が出れば譲渡所得税がかかりますが、「空き家の3,000万円特別控除」を利用できる可能性があります。この特例は、一定の条件を満たせば、譲渡所得から最大3,000万円を控除できる制度です。
空き家の3,000万円特別控除について適用できる物件や要件を詳しく知りたい方は、こちらの記事を参考にしてください。
空き家が相続不動産で、売却する前に法的な問題を解決しなければならない場合は、住まいの賢者までご相談ください。登記から売却までワンストップで不動産売却をサポートいたします。ぜひお気軽にお問い合わせください。
5-2 活用
自分で使わない空き家でも、賃貸住宅や駐車場として活用すれば、収入源に変えることが可能です。初期投資や管理コストはかかりますが、空き家を維持しながら資産として活用できる選択肢です。
また、地域の交流スペースやシェアスペースとして貸し出す事例も増えており、地域貢献にもつながります。
ただし空き家の状態や立地によっては、採算が取れない場合もあります。地域のニーズや補助金を調べた上で、事前に専門家に相談するのが賢明です。
まとめ:空き家の譲渡は「放置しない」「慎重に」がカギ
空き家の譲渡には贈与契約書の作成や、必要書類の準備、登記などのステップがあり、税務上の注意点も少なくありません。しかし正しい情報をもとに進めれば、スムーズに進められます。
空き家を相続したとき、譲渡をするしないに限らず、放置しておくのだけは避けたいところです。
空き家の活用方法は譲渡に限らず、売却や賃貸などさまざまです。最終的には税理士や不動産の専門家に相談し、自分や家族の将来設計を踏まえた判断をしましょう。
空き家の売却も視野に入れているのなら、早めに動くことが肝心です。住まいの賢者では、不動産売却や法律の専門家がご相談を承っております。どうすればいいか悩んでおられる方は、まず相談への一歩を踏み出すことをおすすめします。
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