相続放棄後は不動産の管理義務が残る?法改正後の内容を解説!

相続放棄後は不動産の管理義務が残る?法改正後の内容を解説!
執筆者: 中西孝志

はじめに

相続によって財産を取得した場合、各財産の管理義務が合わせて生じます。例えば、不動産を相続した場合、それらの維持・管理義務が生じます。
一方、相続放棄をした場合は、原則、被相続人(亡くなった人)が保有していた財産の一切を引き継ぎません。これに合わせて、不動産を含めた各財産の管理義務も生じません。
しかし、一定の条件下では、相続放棄をした場合でも、不動産の管理義務が自身に残るケースがあります。「自分に不動産の管理義務があるかどうかわからない」と不安を感じる声も少なからず聞きます。
この記事では、相続放棄をしても、不動産の管理義務が残るケースについて解説します。その上で、管理義務を放棄した場合に起こりうるリスク・対応方法についても触れていきます。

第1章 相続放棄しても不動産の管理義務は残る?

1-1 法改正後は「現に占有している場合」のみ管理義務が残る

2023年3月までの法律では、相続放棄をした後でも、不動産の管理義務が残るケースがありました。しかし、旧民法には、「相続放棄後の管理義務対象者があいまいである」という指摘も少なからずありました。それを受けて、2023年4月の民法改正の際に、不動産の管理義務に関する条文が以下のように変更されました。

民法940条 相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は第九百五十二条第一項の相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない。


この改正により、相続放棄後に不動産の管理義務が残るのは、「相続財産を現に占有している場合」のみに変更されました。これは、「事実上の支配・管理をしている状態」を指します。
例えば、相続以前から被相続人と同居しており、かつ被相続人の没後もそのまま住んでいる場合は、該当の不動産を「現に占有している」とみなされます。この場合は、仮に相続放棄をしたとしても、不動産の管理義務が残ります。

1-2 相続放棄した際は次順位相続人に管理義務が移る

相続では、相続の順位が定められており、この順位が同じ相続人が全員相続放棄した場合、次の順位の相続人に相続権が移ります。また、これに合わせて不動産の管理義務も移ります。相続の順位は、以下の通りに定められています。

  • 配偶者:常に相続人となる
  • 第1順位:子供 (亡くなっている場合は、孫)
  • 第2順位:親 (亡くなっている場合は、祖父母)
  • 第3順位:兄弟姉妹 (亡くなっている場合は、甥姪)

例えば、先順位である被相続人の子供が全員相続放棄をした、あるいは元から存在しない場合は、親に相続権が移ります。

以下のケースで具体例を見ていきます。

  • 被相続人には、配偶者、子供2名がいる
  • 被相続人の父母はどちらも存命である

この場合、被相続人の子供がいる限り、父母には相続権がありません。しかし、子供が2名とも相続放棄した場合、父母に相続権が生じることになります。これに合わせて、不動産の管理義務も父母に生じます。

1-3 管理義務を免れるには相続財産清算人を選任する

1-1でまとめた通り、相続が発生した時点で不動産を占有していた場合は、相続放棄をしても不動産の管理義務が発生します。また、相続人が自分しかいない・全員が相続放棄した場合なども、不動産の管理義務が残ることがあります。

この管理義務をなくすには、家庭裁判所に相続財産清算人の選任を申し立てる必要があります。
相続財産清算人は、被相続人の債権者に対して債務を支払うなどし、処分を行った後に財産を国庫に帰属させる役割を担います。
相続財産清算人に遺産の管理を引き継いだ場合は、不動産を現に占有していたとしても、不動産の管理義務がなくなります。

第2章 相続放棄後に不動産を管理しなかった場合に生じるリスク

2-1 損害賠償請求される恐れがある

相続放棄後に不動産の管理義務が残っているにも関わらず、適切な管理をしなかった場合、損害賠償請求をされる恐れがあります。
例えば、空き家となった不動産は、管理不足に伴う倒壊のリスクが高まります。特に、1981年5月以前に建築された建物は、旧耐震基準によって建築されており、より倒壊のリスクが高いといえます。これは、旧耐震基準が「震度5程度の地震に耐えうる住宅」と定められていたためです。
万が一、管理をしていない空き家がある地域に大型地震が発生し、建物が倒壊したことで周囲の住宅を破壊したり、あるいは住民にケガを負わせるなどしたりした場合は、不動産の管理義務者に対して、損害賠償請求をされる可能性があります。

このように、不動産の管理義務を果たさずに放置していた場合、重大な問題に発展する恐れがあるため、適切な管理・準備をしておくことが重要です。

2-2 犯罪に巻き込まれる恐れがある

長く放置されている空き家などの不動産は、犯罪に巻き込まれる恐れがあります。
例えば、2018年、千葉県のとある空き家が、大量に密輸された覚せい剤を受け渡すための基地として使われていた事件が発覚しました。

管理が行き届いていない空き家は、犯罪者の目には非常に都合のいいものに映ります。その空き家をどう使っても、一定の期間は通報されるリスク等が低いためです。
相続人のあずかり知らぬところで犯罪に巻き込まれないよう、相続した不動産を適切に管理していくことは非常に重要です。

第3章 相続財産清算人を選任する方法・必要書類

3-1 相続財産清算人とは

相続財産清算人とは、相続人がいない相続財産を管理・清算し、最終的に国庫へ帰属させる役割を担う人のことです。相続放棄後に不動産の管理義務が残った場合でも、相続財産清算人を選任することで、該当の不動産の管理義務をなくすことができます。

なお、相続財産清算人は、後述する職務の特性上、弁護士や司法書士など、法律の専門家が選任されるケースが大多数です。
相続財産清算人が必要とされるのは、主に以下のケースです。

  • 相続人全員が相続放棄をした場合
  • 元から相続人が存在しない場合

相続財産清算人は、基本的に「不動産を管理すべき相続人が全員相続放棄した場合」に選任されることになります。
また、相続財産清算人は、主に以下のような職務を担います。

  • 相続財産の調査
  • 相続財産の管理、および換価
  • 相続財産からの支払い

相続財産清算人の職務のうち、最初に取り組まれるのは、被相続人の財産の調査、その管理と換価です。被相続人が有していた財産がどれくらいあるのかを詳しく調査し、その財産を金銭に換価していくことが一般的です。
例えば、被相続人が金銭債権を有していた場合、相続財産清算人は、債務者からの回収業務を代行することができます。また、不動産等を売却し、現金に換えていくことも実施します。

逆に、被相続人が債務を有していた場合は、債権者への弁済を代行します。

最終的に残った財産については、特別縁故者がいた場合は、申し立てにより、財産分与が行われます。また、相続財産が第三者との共有物だった場合は、その第三者に財産が帰属します。

特別縁故者がおらず、共有する第三者がない場合は、残った財産はすべて国庫に帰属されます。

3-2 相続財産清算人の選任申立方法

相続財産清算人の選任申立は、家庭裁判所に対し、必要書類を提出することで可能です。

相続財産清算人の選任申立に必要な書類は、以下の通りです。

  • 相続財産清算人選任の申立書(家事審判申立書)
  • 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本(除籍謄本・改製原戸籍謄本も含む)
  • 相続人の不在を証明するための戸籍謄本類
  • 被相続人の住民票除票または戸籍附票
  • 相続財産を証明する資料(不動産登記事項証明書、固定資産評価証明書、預金通帳の写しなど)
  • 申立人と被相続人との利害関係を証明する資料(戸籍謄本など)
  • 相続財産清算人の候補者の住民票または戸籍附票(相続財産清算人の候補者を申立人が推薦する場合)

上記のうち、相続財産清算人選任の申立書は、家庭裁判所でもらうことができます。

選任申立の必要書類は非常に多いですが、その多くが被相続人の戸籍謄本、または法定相続人の戸籍謄本です。これは、被相続人に相続人がいないことを徹底的に調査する必要があるためです。

3-1でも触れましたが、相続財産清算人を選任するためには、「相続人が誰もいない(全員が相続放棄している)」条件が必要です。このことから、法定相続人が誰もいない、あるいは全員が相続放棄していることを証明するために、多くの書類が必要となります。

相続財産清算人の選任申立ができる人は、被相続人の相続に関連する利害関係人、または検察官と定められています。ここでいう利害関係人に含まれる人は、法定相続人だけではありません。債権者(被相続人にお金を貸している人など)や受遺者(遺言で財産を与えられた人)なども含みます。

相続財産清算人の選任申立は、利害関係人または検察官が被相続人の最後の住所地の家庭裁判所に対して行います。家庭裁判所は、申立の内容ごとに、適切な相続財産清算人を選任します。相続財産清算人の業務に特別な資格は必要ありませんが、一般に、被相続人が最後に居住していた地域の弁護士や司法書士が選ばれることが多いです。

相続財産清算人の選任申立は、非常に多くの書類を用意する必要があります。特に、法定相続人らの戸籍謄本を集めようと思うと、都道府県をまたいだ複数の市区町村から取り寄せる必要が出てくる可能性があります。これらをスムーズに進めたい方は、司法書士等の専門家に相談・依頼することを推奨します。

3-3 相続財産清算人を選任する際にかかる費用

相続財産清算人を選任する際は、必要書類の収集・家庭裁判所への支払いで、以下の費用が必須でかかります。

必要書類の発行にかかる費用戸籍謄本1通あたり450円
除籍謄本・改製原戸籍謄本1通あたり750円
住民票除票・戸籍附票1通あたり300円程度(市区町村によって値段が異なる)
その他相続財産の内容に応じて、不動産登記事項証明書、残高証明書の発行手数料が必要。
家庭裁判所に支払う費用収入印紙800円
連絡に用いる郵便切手1,000円~2,000円程度(家庭裁判所ごとに異なる)
官報公告料5,075円
予納金ケースごとに異なる(不要な場合もあり)

必要書類の発行数(法定相続人の人数)により総額が異なりますが、書類の発行手数料・家庭裁判所への支払い費用で、合計10,000円〜20,000円程度かかることが一般的です。なお、上記のうち、官報公告料については、家庭裁判所の指示があってから支払います。

「予納金」については、後述する、相続財産清算人選任後の報酬支払いをできる見込みがない場合に必要な費用です。相続財産清算人への報酬や経費は、一般に相続財産の中から支払われます。しかし、相続財産の総額が少ない場合、必要経費と報酬の支払いが見込めないと判断されるケースがあります。この場合は、報酬や経費に該当する金額を「予納金」として支払う必要があります。

予納金の金額はケースごとに異なりますが、少なくとも数十万円、多いと100万円程度の支払いを求められることが多いです。ただし、相続財産清算人への報酬等を、相続財産から支払えた場合は、予納金は返還されます。

なお、財産が十分にあることが明らかな場合は、予納金の支払いが免除されることがあります。実際に支払いが必要かどうかは、申請時に確認してください。

なお、必要書類の収集を司法書士等に依頼した場合は、司法書士への報酬も別途で必要となります。司法書士ごとに報酬額は変わりますが、戸籍謄本類の収集のみの場合、おおむね5,000円〜15,000円程度です。

また、相続財産清算人が選任されたあとは、相続財産清算人に対して報酬を支払う必要があります。報酬の金額は、ケースや自治体によってまばらですが、月数万円程度が相場です。

また、相続財産の中から支払われるため、原則、法定相続人や利害関係者が支払う必要はありません。

なお、被相続人の親族が相続財産清算人になった場合は、報酬を受け取ることはありません。

まとめ:不動産の相続放棄についてお気軽にお問い合わせください

この記事では、相続放棄をしたにも関わらず、相続不動産の管理義務が発生するケース、およびその注意点や対処法に触れたうえで、相続財産清算人の選任申立の方法や費用についてまとめました。

相続放棄後の不動産の管理義務については、非常にトラブルに発展するケースが多いです。「自分に管理義務があるとは知らなかった」ということも少なからずあります。また、管理義務を無くすための相続財産清算人の選任申立の手続きも、非常に煩雑なため、相続人だけで完結するのが難しい部分があります。

「住まいの賢者」では、不動産の相続に強い司法書士と連携し、相続手続き・相続放棄に関する相談や依頼を受け付けています。不動産の相続手続きや相続放棄でお悩みの方は、ぜひお気軽にお問い合せください。

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この記事の執筆者

中西 孝志(なかにし たかし)

中西 孝志(なかにし たかし)

株式会社あんしんリーガル 宅地建物取引士/FP2級技能士/損害保険募集人

約20年の実務経験を活かし、お客様の潜在ニーズを汲み取り、常に一方先のご提案をする。お客様の貴重お時間をいただいているという気持ちを忘れず、常に感謝の気持ちを持つことをモットーとしている。

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