相続したくない土地があるときは?放棄・手放すための正しい対応ガイド

相続したくない土地があるときは?放棄・手放すための正しい対応ガイド
監修者: 中西孝志

はじめに

「相続したくない土地がある」「先祖代々の土地、できれば引き継ぎたくない……」といった悩みを抱える方は、年々増加しています。特に、都市部から離れた山林や農地、空き家が建ったままの土地など、「負担だけが大きく使い道のない不動産」は、今や「負動産」と呼ばれるほど社会問題化しています。

かつては「土地は資産」という考えが一般的でしたが、少子高齢化・過疎化の進行により、「所有しているだけで損失を被る土地」というのも珍しくありません。

この記事では、「相続したくない土地」がある場合に取るべき選択肢や、具体的な手続き、注意点を詳細に解説します。相続が発生してからでは間に合わないケースもあるため、早めの理解と準備が肝心です。

第1章:なぜ土地を「相続したくない」と思うのか?

不動産は本来、財産として受け継がれるものですが、近年では相続を敬遠されるケースが増えています。その主な理由は以下の通りです。

1-1 固定資産税や維持管理コストの負担が重い

相続した土地には、毎年、固定資産税が課せられます。都市部であれば税額もそれなりに高く、地方でも一定の負担が発生します。

さらに、空き地や空き家となっている土地では、以下のような管理義務も伴います。

  • 草刈りや除草
  • ゴミや不法投棄物の処理
  • 老朽化した建物の修繕や解体
  • 台風・地震など災害時の対応

これらはすべて所有者の責任で行う必要があり、時間的・経済的な負担は無視できません。

1-2 売れない・使えない土地が多い

立地や地形が悪い、道路に接していない、近隣に生活インフラが整っていない、といった土地は、売却しようにも買い手がつかないケースが多く、実質的に「資産価値がゼロ以下」となってしまいます。

また、賃貸や事業用としても使えない土地は、持っていても使い道がなく、将来的に子や孫へ負担を残してしまう可能性があります。

1-3 家族関係や感情的な理由も影響

相続をめぐる話し合いで揉めたくない、兄弟姉妹とトラブルになるのが嫌だ、などの理由で土地の相続を回避したいと考える方もいます。また、自分では管理できない遠方の土地を相続しても意味がない、と現実的な判断を下す方も増えています。

第2章:相続放棄という選択肢とその正しい使い方

土地を相続したくない場合、まず思い浮かぶのが「相続放棄」です。これは、相続人の立場そのものを放棄する方法で、個人単位で家庭裁判所に申し立てることによって行います。

2-1 相続放棄の基本ルール

相続放棄は、民法上の明確なルールに基づいています。

  • 相続開始(=被相続人の死亡)を知った日から3か月以内に家庭裁判所へ申述
  • 他の相続人が放棄しなくても、個別に放棄が可能
  • 放棄すると、その人は「最初から相続人でなかった」扱いになる

つまり、土地だけでなく、預貯金やその他の財産も一切受け取らないという前提になります。

2-2 相続放棄に必要な書類と手続き

  • 相続放棄の申述書(裁判所のウェブサイトで雛形が公開されています)
  • 被相続人の住民票除票または戸籍附票
  • 被相続人の死亡の記載がある戸籍謄本
  • 相続放棄する人の戸籍謄本
  • 収入印紙(800円)および郵便切手

この他、被相続人の親や孫、兄弟姉妹の場合には、相続人であることを証明する書類も必要になります。

2-3 相続放棄のポイント

  • 一度相続放棄すると撤回できない
  • 相続開始を知らなかった場合、後から相続開始を知った日が「3ヶ月」の期限(熟慮期間)の起算点となる
  • 他の相続人に権利・義務が回ることで、家族間のトラブルが起こることもある

相続放棄は非常に強力な制度ですが、使い方を間違えるとトラブルの元にもなります。専門家への事前相談が重要です。

第3章:相続放棄できなかった・間に合わなかった場合の対処法

「相続放棄の期限を過ぎてしまった」「相続財産から固定資産税を払ってしまった」など、相続放棄ができなくなるケースもあります。では、そうなってしまった場合、土地を手放す方法はあるのでしょうか?

3-1 相続を承認したとみなされてしまうケースとは?

実際には「放棄の意思があった」としても、次のような行為をすると、相続を承認したとみなされる可能性があります。

  • 名義変更(登記)を済ませる
  • 相続財産である建物のリフォームを行う
  • 相続財産である預貯金から固定資産税を納付する

これらの行為を行うと「法廷単純承認」が成立してしまい、原則として相続を取り消すことは難しくなります。

3-2 相続放棄できなくなった場合に取りうる手段

  • 遺産分割協議によって他の相続人に引き取ってもらう
  • NPO法人や自治体に譲渡・寄付する(ただし、受け入れの可能性は限定的)
  • 相続土地国庫帰属制度を利用し、国に土地を引き渡す

最終的にどうにもならない場合は、専門家と連携して売却の可能性を模索することが現実的な選択肢です。

第4章:2023年施行の「相続土地国庫帰属制度」とは?

2023年4月より施行された「相続土地国庫帰属制度」は、不要な土地を一定の条件のもとで国に引き取ってもらえる制度です。長年「放棄できない土地」に苦しんできた人々にとって、画期的な制度といえるでしょう。

4-1 制度のポイント

  • 相続や遺贈によって取得した土地が対象
  • 利用には法務局への申請と審査が必要
  • 対象外の土地(建物付き、汚染・埋設物あり、越境など)も多い

4-2 申請に必要な費用と時間

  • 申請手数料:1筆あたり14,000円
  • 負担金:審査結果に応じて数万円〜数十万円
  • 審査期間:数か月から1年以上かかる場合も

4-3 制度を活用するための注意点

  • 対象となる土地かどうか、事前の確認が重要
  • 測量や整地が必要な場合は追加費用が発生
  • 必ずしも申請すれば受け入れられるわけではない

制度の利用には専門的な知識と事前準備が必要なため、司法書士などの専門家に相談しながら進めることが安心です。

第5章:土地を相続したくないときに知っておくべき5つのポイント

  1. 相続放棄は「期限」が大事。3か月以内に決断を
  2. 放棄は全財産対象。土地だけの放棄は不可
  3. 国庫帰属制度は便利だが、適用条件が厳しい
  4. 名義変更(登記)後は相続放棄できない
  5. 専門家に相談すれば、的確な判断と手続きが可能に

まとめ:相続したくない土地こそ、放置せずに向き合おう

「いらない土地だから放っておこう」と思っても、相続や所有の問題は時間とともに深刻化していきます。管理放棄された土地は、周囲に迷惑をかけ、行政指導の対象になることもあります。

相続前の準備、相続後の対応、いずれにおいても、正しい情報と冷静な判断、そして必要に応じた専門家の助力が不可欠です。

「住まいの賢者」では、司法書士法人と連携し、相続放棄や土地処分、国庫帰属制度の手続きなどに関する無料相談を承っています。土地が負担になる前に、ぜひ一度ご相談ください。

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この記事の監修者

中西 孝志(なかにし たかし)

中西 孝志(なかにし たかし)

宅地建物取引士/FP2級技能士/損害保険募集人

約20年の実務経験を活かし、お客様の潜在ニーズを汲み取り、常に一方先のご提案をする。お客様の貴重お時間をいただいているという気持ちを忘れず、常に感謝の気持ちを持つことをモットーとしている。

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