アパートを相続するときの流れとは?相続すべきかの判断基準も紹介

アパートを相続するときの流れとは?相続すべきかの判断基準も紹介
監修者: 中西孝志

はじめに

親族が所有していたアパートを相続することになった際、どのような手続を踏めばよいのか、また相続すべきかどうかの判断に悩む方は少なくありません。

この記事では、アパートを相続する際の具体的な手続の流れを解説します。また、相続すべきかどうかの判断基準についても触れておきますので、相続が発生した際の参考にしてください。

第1章 アパートを相続するときの流れ

STEP① 遺言書の有無を確認する

アパートを相続する際、まず確認すべきは遺言書の有無です。遺言書が存在すれば、その内容が相続の手続や分配に影響を与えます。

遺言書には主に、公正証書遺言、自筆証書遺言、秘密証書遺言の3種類があります。公正証書遺言は公証人が作成し安全性が高いため、相続手続が円滑に進む傾向があります。

なお、公正証書遺言の場合や、自筆証書遺言で法務局の保管制度を利用していた場合は、家庭裁判所の検認手続が不要です。

STEP② 相続人調査を行う

相続人調査は、誰が法定相続人であるかを確定するための重要な手続です。被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍謄本を収集し、相続人の範囲と順位を確認します。

戸籍謄本の収集は、被相続人の本籍地の市区町村役場で行います。転籍や婚姻、離婚などで本籍地が変更されている場合は、過去の本籍地にある役場から取り寄せなければなりません。

STEP③ 相続財産調査をする

相続財産調査では、被相続人が所有していた資産と負債の把握が不可欠です。アパートに関しては、まず登記簿謄本や固定資産税の納税通知書を確認し、所有権や担保設定の有無を調べます。

次に、アパートローンの残高を確認し、団体信用生命保険(団信)に加入していたかを調べます。加入していた場合、被相続人の死亡保険金で完済されますが、加入していない場合は相続人がローンを引き継ぐ必要があります。

STEP④ 遺産分割協議を行う

遺産分割協議は、相続人全員で遺産の分配方法を話し合い、合意に至るための手続です。アパートの分割方法には、以下の4つがあります。

  1. 現物分割:財産を現物のまま分けて各相続人が取得する方法
  2. 代償分割:特定の相続人が不動産を取得し他の相続人に代償金を支払う方法
  3. 換価分割:不動産を売却して得た現金を相続人の間で分ける方法
  4. 共有分割:不動産を複数の相続人で共有する形で分割する方法

相続人の状況や希望に応じて最適な方法を選択することが重要です。協議が成立したら、遺産分割協議書を作成し、相続人全員が署名・押印します。

なお、ローン(債務)は分割の対象とならないため、原則法定相続分の割合で相続します。アパートの所有者にローンをまとめたい場合には、金融機関の同意を得る必要があるので注意しましょう。

STEP⑤ 準確定申告を行う

被相続人が生前に不動産所得や事業所得などで確定申告が必要だった場合、相続人は代わりに「準確定申告」を行う義務があります。被相続人の死亡日から4か月以内に行う必要があり、相続税の申告期限(10か月)よりも早いため注意が必要です。

特に、賃貸アパートを所有していた場合、死亡日までに発生した家賃収入や経費(修繕費、固定資産税など)を正確に計上する必要があります。これらの収入や経費は、準確定申告の対象となり、相続人が適切に申告しなければなりません。

STEP⑥ 相続税申告をする

遺産の総額が基礎控除額を超える場合、相続税の申告を被相続人の死亡日から10か月以内に行わなければなりません。期限を過ぎると、無申告加算税や延滞税などのペナルティが課される恐れがあります。

申告期限は納税期限でもあるため、納税資金の準備もしておく必要があるでしょう。

【基礎控除額の計算式】

基礎控除額=3,000万円+600万円×法定相続人の数

なお、相続税を計算する際は、賃貸アパートの建物部分の評価額は固定資産税評価額を基に算出され、土地部分については路線価を基準に算出されます。

STEP⑦ 相続登記をする

相続登記とは、被相続人から相続人へ不動産の名義を変更する手続です。2024年4月1日より、相続登記は義務化されており、相続開始(被相続人の死亡)を知った日から3年以内に申請しなければなりません。

期限内に登記を行わない場合、10万円以下の過料が科せられる可能性があります。また、登記を怠ると不動産の売却や担保設定ができず、トラブルの原因となりかねません。

STEP⑧ 入居者・管理会社に連絡する

アパートを相続した場合、速やかに入居者や管理会社に連絡を取り、所有者が変更されたことを伝えましょう。そうすれば、家賃の振込先や契約内容の確認が、円滑に行えるでしょう。

入居者には、所有者変更の通知書を送付し、家賃の振込先や連絡先の変更を伝えます。また、管理会社との契約内容や管理業務の引継ぎについても確認が必要です。

STEP⑨ アパート経営を続けるか決める

相続したアパートの経営を継続するか否かの判断においては、物件の収益性と将来的な維持管理の可否が重要なポイントとなります。収支が黒字であり、今後も安定した賃貸需要が見込める場合は、経営を続ける選択肢が有力です。

一方、築年数が古く修繕費用がかさむ場合や、空室率が高く収益性が低下している場合は、売却や他の土地活用を検討しましょう。ローン残高が多く返済が困難な場合は、経営継続のリスクが高まるので注意が必要です。

第2章 アパートを相続するメリット

2-1 収益物件を手に入れ賃貸収入を得られる

アパートを相続する最大のメリットの一つは、継続的な賃貸収入を得られる点です。入居者がいる場合、相続後すぐに家賃収入が発生し、生活資金や他の投資資金として活用できます。

特に、都市部や需要の高いエリアに位置するアパートは、安定した収益を見込める可能性があり、長期的な資産価値の維持・向上も期待できます。

さらに、賃貸経営に関する知識や経験を積むことで、将来的な不動産投資の幅を広げられます。相続を機に、不動産オーナーとしての第一歩を踏み出す方も少なくありません。

2-2 現金・預貯金を相続するより相続税の負担を軽減できる

現金や預貯金は、その額面通りの金額が相続税の評価額となるため、相続税の負担が大きくなる傾向があります。一方、不動産は固定資産税評価額や路線価に基づいて評価されるため、市場価格よりも低い評価額となり、相続税の負担軽減が可能です。

さらに、賃貸物件であるアパートを相続する場合、借家権割合や貸家建付地の評価減が適用され、評価額をさらに下げられます。現金を相続するよりも相続税の負担の大幅な軽減が可能です。

また、「小規模宅地等の特例」を活用することで、一定の条件を満たす宅地については、賃貸物件であっても相続税評価額を最大50%減額でき、相続税の負担をさらに軽減できます。

第3章 アパートを相続するデメリット

3-1 赤字の場合は自己資金で賄う必要がある

アパート経営が赤字の場合、相続人は自己資金でその赤字を補填する必要があります。特に、家賃収入がローン返済や維持管理費を下回る場合、経営は困難になるでしょう。

築年数が古いアパートでは、修繕費用が増加し、空室リスクも高まります。収益性がさらに低下し、赤字が拡大する可能性も否めません。

3-2 ローン返済も受け継がなければならない場合がある

アパートを相続する際、被相続人がローンを組んでいた場合、その返済義務も相続人に引き継がれます。特に、団体信用生命保険(団信)に未加入であった場合、ローン残債がそのまま残るため、相続人が返済を続けなければなりません。

ローンの返済が困難な場合、金融機関からの督促や一括返済の要求が発生する可能性があります。最悪の場合、物件が競売にかけられるリスクもあるため、事前にローンの状況や返済計画を確認しておくことが重要です。

また、ローンの名義変更には金融機関の承諾が必要であり、相続人の返済能力や物件の収益性が審査されます。場合によっては、連帯保証人の追加を求められることもあるため、慎重な対応が求められます。

第4章 アパート経営を相続すべきか判断する基準

4-1 アパート経営が黒字かどうか

アパート経営を継続するか判断する際、まず収支が黒字であるかを確認することが重要です。家賃収入が管理費や修繕費、税金などの支出を上回っているかを把握しましょう。

また、将来的な収益性も考慮する必要があります。築年数や設備の老朽化により、修繕費が増加する可能性があるため、長期的な視点での収支予測が求められます。

さらに、地域の賃貸需要や競合物件の状況も収益性に影響を与えます。空室率の推移や家賃相場の変動を調査し、安定した経営状態が見込めるかを判断しましょう。

4-2 ローンの残高が残っているか

アパートを相続する際、まず確認すべきはローンの残高です。登記簿謄本や固定資産税の納税通知書をもとに、被相続人がローンを利用していたかを金融機関に確認しましょう。ローンが残っている場合、相続人はその返済義務を引き継ぐことになります。

前述のとおり、被相続人が団体信用生命保険(団信)に加入していた場合、死亡時に保険金でローンが完済され、団信に加入していない場合や保険金で完済できない場合は、相続人がローンの返済を引き継ぐ必要があります。

ローンの返済を引き継ぐには、金融機関の審査を受ける必要があります。審査では、相続人の収入や資産状況、アパートの収益性などが評価されます。審査に通らない場合、追加の連帯保証人を求められるケースも少なくありません。

4-3 アパートの築年数や修繕履歴

アパートの築年数や修繕履歴は、今後の維持管理費用や収益性に大きく影響します。築年数が経過している場合、近いうちに大規模修繕が必要となる可能性が高まります。

外壁や屋根の塗装、防水工事などの大規模修繕は、築10〜15年の経過を目安に行うのが一般的です。また、給排水管や設備の交換なども、築年数に応じて必要となります。

修繕履歴が不明な場合は、専門業者による建物診断を依頼し、今後の修繕計画を立てることが重要です。修繕費用は建物の規模や劣化状況によって異なりますが、事前に見積もりを取得し、資金計画を立てることが求められます。

第5章 アパートを相続した場合の選択肢

5-1 アパート経営を引き継ぐ

アパート経営を引き継ぐことで、安定した家賃収入を得られます。特に、立地が良く入居率が高い物件であれば、継続的な収益が期待できます。

また、相続によりアパートを取得することで、小規模宅地等の特例を活用し、相続税の負担軽減が可能です。この特例は、一定の条件を満たすことで、賃貸用物件であっても土地評価額を最大50%減額できる制度です。

しかし、アパート経営には維持管理や修繕、入居者対応などの業務が伴います。これらの業務を自身で行うか、管理会社に委託するかを検討する必要があります。

5-2 アパートを売却する

アパートを相続した際、経営を続けるのが妥当でないなら、売却するのも一つの選択です。その場合、相続税や譲渡所得税などの税金対策を考慮する必要があります。

売却のタイミングとしては、相続税の申告期限の翌日から3年以内が推奨されます。そうすれば、「取得費加算の特例」が適用され、譲渡所得税の負担を軽減できます。相続税の一部を取得費に加算でき、税負担を抑えられるでしょう。

5-3 アパートを解体し建て直す

老朽化したアパートを相続した場合、解体して新たに建て直すという選択肢もあります。新築により耐震性や設備の向上が図れ、物件の価値を高められるでしょう。

建て替えには、解体費用や建築費用、立ち退き費用など多額の初期投資が必要です。また、建て替え期間中は家賃収入が途絶えるため、資金計画を慎重に立てる必要があります。さらに、入居者との立ち退き交渉や近隣住民への配慮も重要です。

5-4 アパートを解体し他の土地活用をする

相続したアパートが老朽化していたり、賃貸需要が低下している場合、解体して他の土地活用を検討するのも一つの選択肢です。更地にすることで、土地の用途を柔軟に変更できる可能性が広がります。

土地活用の方法としては、駐車場や倉庫、商業施設等への賃貸などがあります。これらは比較的低コストで始められ、地域の需要に応じた収益が見込めるでしょう。

ただし、解体には費用がかかり、土地活用の方法によっては収益性が下がる可能性もあります。また、地域の規制等によっては、商業目的に使えない場合や許認可が必要な場合もあるため、事前に確認が必要です。

第6章 アパートを相続する際の注意点

6-1 賃料も相続財産に含まれる

アパートなどの賃貸物件を相続する際、賃料収入の取り扱いは時期によって異なります。相続開始前に発生した賃料は、当然に法定相続分で分割され、遺産分割の対象になりません。ただし、相続人全員の合意によって遺産分割の対象に含めることも可能です。

一方、相続開始後から遺産分割成立前に発生した賃料は、各相続人が法定相続分に応じて取得することになります。この期間の賃料は遺産とは別個の財産とされ、遺産分割の対象にはなりません。

遺産分割成立後の賃料は、その不動産を取得した相続人が取得します。遺産分割には遡及効(法律や契約の効力がその成立以前の時点に遡って発生すること)がありますが、賃料については遺産分割成立後からの取得となります。

実務上、賃料の取り扱いについては相続人の間での合意が重要です。賃料の請求や管理を誰が行うかを明確にし、トラブルを避けるためにも、専門家の助言を受けるのが賢明です。

6-2 相続税は現金一括納付が原則である

相続税は原則として現金一括納付が求められます。遺産の大部分がアパートなどの不動産である場合、相続人が納税資金を用意することが困難となるケースも少なくありません。

納税資金が不足する場合、延納や物納などの制度を利用できます。延納は相続税を分割して支払う方法であり、物納は不動産などの物で納税する方法です。

延納や物納の申請には期限があり、相続税の申告期限内に手続を行う必要があります。また、物納の場合、納付する財産が一定の要件を満たしていることが求められます。

6-3 アパートを活用・売却する際には相続登記を済ませておく必要がある

アパートを相続した後に活用や売却を検討する際には、まず相続登記を行い、名義を被相続人から相続人へ変更する必要があります。相続登記を行わない限り、所有権を主張できず、売却や賃貸契約などの手続ができません。

まとめ

アパートの相続には、収益物件としての価値や相続税の節税効果など、多くのメリットがあります。しかし、ローンの残債や老朽化による修繕費用、相続登記の義務化など、注意すべき点も少なくありません。

相続したアパートを活用するか売却するかの判断は、物件の収益性や管理の手間、家族構成など、個々の状況によって異なります。また、現在は相続登記が義務化されており、期限内に手続を行わないと過料が科せられるため、早めの対応が必要です。

アパートの相続は、単なる資産の引き継ぎではなく、今後の生活設計や家族関係にも大きな影響を与える重要な決断です。最新の情報を収集し、信頼できる専門家と連携しながら、最適な選択を行いましょう。

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この記事の監修者

中西 孝志(なかにし たかし)

中西 孝志(なかにし たかし)

宅地建物取引士/FP2級技能士/損害保険募集人

約20年の実務経験を活かし、お客様の潜在ニーズを汲み取り、常に一方先のご提案をする。お客様の貴重お時間をいただいているという気持ちを忘れず、常に感謝の気持ちを持つことをモットーとしている。

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