目次
はじめに
両親が亡くなったことで実家を相続する予定だが、「古くて売れそうにないし、相続しても困るだけでは?」「なるべく実家は相続したくない」とお悩みの方もいるのではないでしょうか。
結論から言うと、実家を相続放棄することは可能です。ただし、メリットばかりではないため、相続放棄をしてから後悔しないためにはデメリットや判断ポイントを知っておく必要があります。
この記事では、実家を相続放棄した場合に起こることや、放棄するメリット・デメリットを解説します。実家を相続放棄するかどうかの判断ポイントや手続きの流れも説明しているので、実家の相続放棄を検討している方はぜひ参考にしてください。
第1章 相続放棄すると実家はどうなる?
相続放棄をすると、その人は法律上「最初から相続人でなかった」とみなされ、実家だけではなく、預貯金や有価証券といった被相続人の財産を一切引き継ぐことができません。他に相続人がいる場合は、その人に相続権が移りますが、誰も相続しない場合には、最終的に実家を含む財産は国に引き取られることになります。ここでは、相続放棄をした場合の取り扱いについて、より詳しく見ていきましょう。
1-1 他の相続人に実家の相続権が移る
相続放棄をした場合、実家などの財産は他の相続人に引き継がれます。例えば、被相続人に配偶者と子がいた場合で、子が相続放棄をすると、相続人は配偶者や他の子のみとなります。ただし、相続放棄によって配偶者の取り分が増えることはありません。法定相続割合に基づき、残った相続人の間で再配分されます。
また、子ども全員が放棄した場合には、相続権は次順位の相続人である被相続人の親へ移ります。親もすでに亡くなっているか放棄している場合は、さらにその次の順位である兄弟姉妹が相続人となります。
1-2 相続人がいない場合は最終的に国のものになる
全ての相続人が放棄した場合や、もともと相続人が存在しない場合には、実家を含む遺産は最終的に国庫に帰属します。ただし、財産が自動的に国のものになるわけではなく、一定の手続きが必要です。
また、被相続人の全員が相続放棄した場合、被相続人と特別な関係にあった人(内縁の配偶者や生前介護をしていた人など)は、特別縁故者として家庭裁判所に申立てを行えば、財産を受け取れる可能性があります。
一方、実家が共有名義になっていた場合は、被相続人の持分だけが相続の対象になります。例えば、被相続人と他の共有者が半分ずつ所有していたケースでは、相続人がいなければ残りの持分は他の共有者に移ります。
なお、特別縁故者も共有者もいない場合、実家を含む相続財産は、相続財産清算人を立て、相続人がいないことを確認すれば最終的に国に引き取られることになります。
第2章 実家が空き家になる場合に相続放棄をするメリット・デメリット
両親が亡くなったことで実家が空き家になる場合、維持管理や税金の負担を理由に、相続放棄を検討する人も少なくありません。ただし、メリット・デメリットを十分に把握せずに相続放棄をすれば、後悔する恐れがあります。ここでは、実家が空き家になる場合に相続放棄をするメリット・デメリットを解説します。
2-1 実家が空き家になる場合に相続放棄をするメリット
実家が空き家になる場合に相続放棄をするメリットは以下の通りです。
- 固定資産税や維持管理費の負担を回避できる
- 老朽化や倒壊によるトラブルリスクを避けられる
- 将来の売却や処分の手間がなくなる
それぞれ詳しく見ていきましょう。
2-1-1 固定資産税や維持管理費の負担を回避できる
相続して空き家を所有すると、居住していなくても毎年固定資産税がかかります。加えて、屋根や外壁の補修・草木の手入れ・防犯対策など、維持管理にも費用と手間が必要です。
こうした支出は年を追うごとに積み重なり、長期的に見ると大きな負担になります。相続放棄をすれば、こうした経済的負担から解放され、将来的な修繕・解体の出費を心配する必要もなくなるでしょう。
2-1-2 老朽化や倒壊によるトラブルリスクを避けられる
空き家となった実家を放置していると、老朽化によって屋根や外壁の崩落、害虫の発生、放火などのリスクが高まります。倒壊や不審火が原因で近隣の建物に被害が及んだ場合、所有者として損害賠償責任を問われるケースもあるでしょう。
相続を放棄すれば、これらの管理責任や損害リスクを背負う立場から離れられるため、維持が困難な物件を無理に抱え込まずに済みます。
2-1-3 将来の売却や処分の手間がなくなる
不動産を相続すると、名義変更や相続登記、売却活動、買主との交渉、解体・更地化といった手続きが必要になります。相続後の売却を検討していても、築年数が古い実家や地方の空き家の場合、買い手が見つからず、手放すまでに長い時間がかかることも少なくありません。
一方で、相続放棄をすれば、こうした手続きや対応を自ら行う必要がなくなり、精神的・時間的な負担を回避できます。
2-2 実家が空き家になる場合に相続放棄をするデメリット
実家が空き家になる場合に相続放棄をするデメリットは以下の通りです。
- その他の財産も相続できなくなる
- 相続放棄後も管理責任が残る場合がある
- 誰も相続しない場合は相続財産管理人の手続きや費用負担が発生する
それぞれについて詳しく解説します。
2-2-1 その他の財産も相続できなくなる
相続の対象は、被相続人の財産全体です。そのため、実家の土地建物は放棄したいが、預貯金や有価証券だけは引き継ぎたいという希望は認められません。実家以外にプラスの財産がある場合、相続放棄を選ぶことでかえって不利になるケースもあります。
2-2-2 相続放棄後も管理責任が残る場合がある
相続放棄をすれば、原則としてその時点で財産の所有権や管理責任からは解放されます。
しかし、例外的に「現に占有している場合」には、保存義務(必要最低限の管理責任)を負う場合があります。現に占有している場合とは、相続人が家に住み続けていたり、鍵を持って出入りしていたりするケースです。
例えば、一人暮らしの母が亡くなり、同居はしていなかったものの、介護のために頻繁に実家へ出入りしていた場合、その人が現に占有している者とみなされる可能性があります。一方で、家に立ち入っておらず、実際の管理にも関与していない相続人であれば、相続放棄の効力が認められた時点で、基本的に管理責任は生じません。
「放棄すれば一切の責任がなくなる」と思い込んでしまうと、後になってトラブルに繋がる可能性があるため、放棄後の関わり方にも注意が必要です。
2-2-3 誰も相続しない場合は相続財産管理人の手続きや費用負担が発生する
実家を含む相続財産について、相続人全員が放棄した場合、財産は最終的に国庫へ帰属します。しかし、国のものになるまでには一定の手続きが必要で、そのまま放置しておくことはできません。
このような場合、家庭裁判所に相続財産清算人の選任を申し立て、清算人が遺産の調査・清算・処分などを行う流れになります。申立てには書類の作成や裁判所への対応など一定の手続きが必要となり、併せて予納金などの費用負担も生じます。
第3章 実家を相続放棄する際の判断ポイント
実家を相続するか放棄するかは、感情だけでなく、財産の状況や生活設計を踏まえた冷静な判断が求められます。相続放棄にはメリットもありますが、軽率に判断すると、かえって損をしたり、余計な手間が生じたりするケースも少なくありません。ここでは、相続放棄を検討する際に確認しておきたい4つのポイントについて解説します。
3-1 不動産に価値があるかどうか
実家を相続すべきかを判断するうえで、確認したいのが「その不動産にどれだけの価値があるか」です。立地や建物の状態によっては、市場での売却が難しく、結果的に使い道のない資産となることもあります。
加えて、固定資産税・火災保険料・修繕費・草刈りや除雪などの維持管理コストも無視できません。たとえ住まなくても、所有している限り、こうした費用は継続的に発生します。
売却や活用の見込みがなく、かつ維持コストばかりがかかるような場合には、相続せず放棄するという判断も現実的な選択肢となるでしょう。
3-2 そもそも借金が多くないか
相続の対象となるのは、土地や建物、預貯金などのプラスの財産だけではありません。クレジットカードの残債、ローン、未払いの医療費・税金など、マイナスの財産もすべて引き継ぐことになります。つまり、被相続人に借金が多い場合、相続すればそれらの返済義務を背負うことになるのです。
仮に不動産にある程度の価値があっても、他の相続財産と合わせてマイナスの方が大きいと判断されるようであれば、相続放棄を選んだ方が良いケースもあります。
自分が相続人となったことを知った時から3ヶ月以内に相続の判断をする必要があるため、なるべく早く通帳・請求書・契約書などを確認し、借入状況や未払いの有無を把握しましょう。
3-3 将来住む予定はあるか
相続する実家に将来的に住む可能性があるかどうかは、放棄するか否かを判断する重要な要素です。例えば「老後に住む選択肢として考えている」「子供(被相続人の孫)がUターンで戻ってくるかもしれない」という場合に、安易に相続放棄してしまうと、後から取り戻すのは難しいでしょう。
一方で、誰も住む予定がなく空き家のまま維持するしかない場合は、管理や費用の負担だけが残ることになります。相続放棄は一度行うと取り消すことができないため、将来のライフプランや家族構成を踏まえて判断することが大切です。
3-4 相続によるトラブルが起こりそうか
遺産の中に不動産が含まれている場合、トラブルに発展するケースがあります。不動産は現金のように簡単に分けられず、売却や管理の方針で意見が割れやすいため、感情的な衝突に発展するリスクが高くなります。
また、相続人同士で連絡が取りづらい、関係が疎遠で話し合いが進まないといったケースも少なくありません。こうした状況で相続に関与すると、思わぬ精神的負担を抱える可能性があります。
一方で、相続放棄によって最初から関わらないという姿勢を取れば、トラブルの火種そのものを断ち切ることが可能です。他の相続人との関係性にもよりますが、相続放棄が現実的かつ穏便な選択肢となる場合もあるでしょう。
第4章 実家を相続放棄する際の流れと注意点
実家を相続放棄するには、家庭裁判所で所定の手続きを踏む必要があります。特に注意すべきなのは、相続の開始を知ってから原則3ヶ月以内に手続きを行わなければならないという点です。この期間を過ぎると、原則として相続放棄は認められなくなります。相続放棄をする際の具体的な流れは以下の通りです。
- 相続放棄をするかどうか判断する
- 戸籍謄本や住民票、相続放棄申述書などの必要書類を用意する
- 家庭裁判所に必要書類を提出し申述する
- 家庭裁判所から届く照会書に必要事項を記入し返送する
- 相続放棄の申述が受理されれば相続放棄申述通知書が届く
流れ自体はシンプルですが、いくつかの注意点があります。まず、相続放棄の意思があっても、実家の遺品を処分したり、預金を引き出したりすると単純承認とみなされる恐れがあります。単純承認とは、相続を受け入れたと法律上判断される状態で、一度これに該当すると放棄はできません。
また、提出書類に不備がある場合、家庭裁判所から呼び出されるケースもあります。こうしたトラブルを避けるためにも、書類は慎重に準備し、不安な場合は専門家に確認してもらいましょう。
まとめ:実家の相続放棄は被相続人の死亡から3ヶ月以内に
実家を相続放棄すれば、固定資産税や維持管理の手間といった負担から解放されます。一方で、他の財産も一括して放棄しなければならず、手続き後も状況によっては最低限の管理責任が生じる可能性があるため、安易な判断は禁物です。
特に実家が空き家になる場合は、将来的な活用予定や売却の可能性、相続人間の関係性などを含めて、総合的に検討する必要があるでしょう。なお、相続放棄を希望する場合は、被相続人が亡くなってから3ヶ月以内に家庭裁判所へ申述を行う必要があります。
被相続人が亡くなってから3ヶ月を過ぎると相続放棄ができなくなるため、判断に迷う場合は早めに不動産会社や専門家へ相談しましょう。
実家を相続放棄する際によくある質問
実家を相続放棄する際によくある質問への回答を掲載しています。
実家だけ相続放棄できますか?
いいえ、実家だけを選んで相続放棄することはできません。相続放棄は相続人としての地位を放棄する手続きのため、不動産や預貯金、有価証券といった全ての財産を一括で放棄する必要があります。
実家を相続放棄した後に住むことはできますか?
原則として、相続放棄をした後に実家へ住み続けることはできません。相続放棄を行うと、その人は法律上「最初から相続人でなかった」とみなされるため、家を使用する権利も失います。
ただし、被相続人の死亡から相続放棄の申述をするまでの熟慮期間(原則3ヶ月)であれば、相続の可否を決めかねている状態のため、実家に住んでいても問題ありません。この間に今後の方針を固め、放棄を選ぶ場合は、3ヶ月以内に家庭裁判所で相続放棄の手続きを行う必要があります。
相続放棄以外の選択肢はありますか?
相続を承認したうえで、以下のような手段が考えられます。
- 実家を売却して現金化する
- 賃貸物件として活用する
- 空き家バンクを利用する
- 家を取り壊して駐車場やトランクルームとして活用する
- 空き家管理サービスを利用する
相続放棄と比べると手間や費用がかかるケースもあるため、状況に応じて検討しましょう。
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