目次
はじめに
相続放棄とは、亡くなった方の財産についての権利・義務の一切を放棄することです。相続において本来得られたはずの財産を得ることが出来なくなりますが、亡くなった方が有していた借金等の負債を引き継がなくてよくなります。
相続に立ち会った際、「兄弟や家族の中で自分だけ相続放棄出来るのか」について悩まれる方が少なからずおられます。この記事では、兄弟の中で自分一人だけ相続放棄をすることが出来るのかについて解説していきます。その上で、兄弟一人だけが相続放棄をする際の留意事項・手続き方法についても解説します。
第1章 兄弟一人だけ相続放棄することもできる
兄弟一人だけが相続放棄することは問題なくできます。この場合の放棄する方以外の兄弟への影響、相続放棄するにあたって気を付けておくべき点は以下の3つです。
1-1 残りの相続人が相続放棄した人の相続分を受け継ぐ
相続放棄をした場合、兄弟を含む残りの法定相続人(民法で定められた、相続をする権利を有する人のこと)が相続放棄した人の相続分を受け継ぐことになります。
以下のケースで相続放棄をした際の動きを見ていきます。
- Aさんが死亡したことにより、現金6,000万円の相続が発生した。生前に遺言は用意されていない。
- 法定相続人は、Aさんの妻のBさん、子どもにあたるCさん・Dさん・Eさんの4人
この場合、法定相続の割合・金額は、Bさんが遺産全体の2分の1で3,000万円です。また、Cさん・Dさん・Eさんはそれぞれ遺産全体の6分の1で1,000万円ずつとなります。
ここで、Cさんが相続放棄した場合、Dさん・Eさんが相続する割合・金額は4分の1で1,500万円ずつになります。
上記のケースのように、兄弟で一人だけ相続放棄した場合は他の兄弟の相続割合が増えることになります。なお、被相続人の子どもが一人である、あるいは兄弟全員が相続放棄をしない限り、被相続人の配偶者の法定相続の割合に変化はありません。
1-2 相続放棄をしても相続税の基礎控除の金額は変わらない
兄弟のうち一人だけが相続放棄をした場合でも、相続税の基礎控除の金額は変わりません。
相続税の基礎控除とは、相続税の計算で用いられる非課税枠のことです。
相続税の基礎控除は、以下の式で計算されます。
- 3,000万円+法定相続人の人数×600万円
1-1で挙げたケースでは、法定相続人が4人いるため、相続税の基礎控除は3,000万円+600万円×4で5,400万円となります。
この基礎控除の計算結果は、法定相続人のいずれかが相続放棄した場合でも変わりません。
1-3 家庭裁判所が相続放棄の受理を残りの相続人に伝えることはない
相続放棄の手続きは、相続放棄を希望する相続人が、家庭裁判所に申請する形で行います。
この際、家庭裁判所が相続放棄の受理を残りの相続人に伝えることはありません。そのため、相続放棄した人自身が、残りの相続人に連絡をする必要があります。
手間に思うかもしれませんが、のちのトラブルを予防するためにも、相続放棄した際は残りの相続人らにその旨を連絡することを推奨します。
第2章 兄弟一人だけ相続放棄した際に起きうるトラブル
兄弟のうち一人だけが相続放棄した際、トラブルが起こることは少なくありません。
よくあるトラブルが、1-3で述べた「相続放棄したことを残りの相続人に連絡しない」ことです。
1-1で挙げた事例のような、純粋な財産のみを引き継ぐ際はそこまで問題になりませんが、被相続人が負債を抱えていた際はトラブルに発展しがちです。
相続は、被相続人の資産だけでなく負債も引き継ぐことになります。
例えば、以下のような事例があったとします。
- 被相続人に2,000万円の負債があった
- 相続人は、被相続人の配偶者1人・被相続人の子ども2人の計3人
- 自身は被相続人の子どものため、法定相続割合は4分の1
この場合、自身の法定相続割合である4分の1に合わせて、負債2,000万円のうち500万円を相続することになります。また、他の相続人が相続放棄した場合は、この割合はさらに増えます。
この際、自身の知らないところで、兄弟が一人だけ相続放棄したことを知った場合は、トラブルになりがちです。
このようなトラブルを予防するためにも、相続放棄した際は、よほどほかの相続人との関係が悪くない限り、相続放棄した旨を共有することを推奨します。
第3章 相続放棄の手続き方法・必要書類
相続放棄の具体的な手続きは、大きく以下の4ステップに分けられます。
- 必要書類を用意する
- 家庭裁判所に相続放棄を希望する旨を申述する
- 家庭裁判所から届く照会書に必要事項を記入、返送する
- 照会書に不備がなければ、相続放棄申述受理書が届く
相続放棄は、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に申請することで、手続きが可能です。
相続放棄をするにあたって必要な書類は、以下の表の4つです。
書類名 | 特記事項 |
---|---|
被相続人の死亡の記載のある戸籍謄本 | 被相続人の配偶者、子や孫以外が相続放棄する場合は出生時から死亡時までのものが必要 |
被相続人の住民票の除票 | 戸籍の附票で代替可能 |
相続放棄を申述する人の戸籍謄本 | |
相続放棄申述書 |
相続放棄をする際は、被相続人と相続放棄を希望する人の関係性によって必要書類が変わってきますので十分注意してください。なお、必要書類のうち、相続放棄申述書は裁判所のホームページから取得することが可能です。それ以外の書類は各市区町村の役場窓口で入手することができます。
また、相続放棄をするには、収入印紙800円分と、家庭裁判所からの連絡用の郵便切手が必要な点は気を付けておいてください。
第4章 相続放棄する際の注意点
4-1 後順位の相続順位の人は、先の順位の人より後でないと相続放棄できない
相続放棄する際、先の順位の属性の方が放棄する前に、後の順位の方は申述が出来ないことになっています。これは、法律で定められている相続順位に基づいています。相続順位は、以下の順番で定められてます。
- 第1順位:被相続人の子、またはその代襲相続人
- 第2順位:被相続人の父母、祖父母
- 第3順位:被相続人の兄弟姉妹
例えば、被相続人の子が相続放棄していない段階では、第2順位にあたる被相続人の父母は相続放棄の申述ができません。
なお、相続順位が同じ人たちは、同時期に相続放棄をすることができます。
4-2 相続放棄をしても不動産の管理義務が残る場合がある
相続放棄をしても、被相続人が所有していた不動産の管理義務が残るケースがあります。これには、相続放棄時点で相続財産を実際に占有していた場合が該当します。例えば、相続人が被相続人と同居していた場合、「相続人が相続財産にあたる不動産を実際に占有していた」とみなされます。この場合は、相続放棄をしても不動産管理義務が発生するため注意してください。
ただし、相続財産管理人の選任を受けることで管理義務は無くなります。相続財産管理人は、被相続人に相続人がいないときに相続財産を管理する人です。この手続きは、家庭裁判所への申し込みが必要なほか、予納金と呼ばれる費用が発生します。予納金は、20万〜100万円程度となっており、非常に高額になるケースがあるため、相続財産管理人を選定するか、自身で管理するかは検討が必要です。
4-3 遺産を使用・処分すると相続放棄が認められない場合がある
相続する財産を処分したり、隠したり消費したりした場合は、相続放棄が認められないケースがあります。これは、「相続する財産を受け取ることを承認した」とみなされ、相続を単純承認したと判断されるためです。
例えば、以下のような行為をした場合は、単純承認したと判断されます。
- 遺産にあたる不動産を売却する行為
- 被相続人が保有していた現金を自身のために使う行為
- 被相続人の預貯金口座を解約する行為
相続放棄を検討する場合は、遺産の使用・処分をしないよう十分に注意してください。ただし、一般に故人の葬儀費用を故人の資産から捻出した場合は、遺産の処分・消費には当たらないと判断される可能性が高いです。
4-4 相続放棄には期限がある
相続放棄には、熟慮期間と呼ばれる申述期限が設定されています。熟慮期間は、原則として、自分が相続人となったことを知った時から3か月以内と定められています。そのため、相続放棄をする際は3か月以内に手続きをしないといけない点は注意してください。
ただし、これはあくまで「家庭裁判所に相続放棄を申述する期限」です。そのため、相続放棄の申述が3か月以内にされていれば、相続放棄の受理が期限より後になっても問題ありません。
まとめ:相続放棄を検討している方はお気軽にご相談ください
この記事では、相続放棄を兄弟一人だけでできるかどうか、相続放棄した際に起こり得るトラブルについて確認したうえで、具体的な手続きの方法や注意点について解説しました。
相続放棄については、相続のケースごとにすべきかどうかの判断が難しい部分があります。また、相続財産管理人を選任すべきかどうかなど、自分だけだと正しい判断を下しづらい部分もあります。
「住まいの賢者」では、不動産の相続に強い司法書士と連携し、相続手続き・相続放棄に関する相談や依頼を受け付けています。相続放棄をすべきかどうかでお悩みの方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。
不動産の無料相談なら
あんしんリーガルへ
電話相談は9:00〜20:00(土日祝09:00〜18:00)で受付中です。
「不動産のブログをみた」とお問い合わせいただけるとスムーズです。