不動産の生前贈与と名義変更の手順を解説!変更する意義と節税効果

不動産の生前贈与と名義変更の手順を解説!変更する意義と節税効果
監修者: 中西孝志

はじめに

現在の日本では高齢化が進み、相続や生前贈与の関心が高まっています。特に、不動産に関する生前贈与は、将来のトラブル回避や節税対策として注目されています。

しかし、不動産の名義変更には専門知識と複雑な手続きが必要なため、事前の準備が大切です。

本記事では、生前贈与で不動産の名義変更を行う手順と名義変更後に起こりがちなトラブルを解説します。不動産を次世代にスムーズに受け渡すために、必要な知識を身につけましょう。

第1章 生前贈与で不動産の名義変更をする意義

生前贈与で不動産の名義変更をする意義は、将来の相続トラブルの回避と相続税の節税対策の二つがあります。

不動産は分割が難しく、資産の分け方をめぐって親族間で相続トラブルが生じるケースが多く見られます。また、相続税の税率が資産総額に対して重くなるため、低い税率で生前贈与し、相続財産総額を減らしておくことで節税効果が期待できます。

他にも、不動産を活用して資産運用を考えている場合、早めに名義変更を行っておくことで、実行までのスピードが格段に上がります。今後の対応をスムーズにするためにも、生前贈与で不動産の名義変更をする意義は十分にあるといえるでしょう。

1-1 生前贈与とは?

生前贈与とは、財産の所有者が生きているうちに、他人に財産を渡す行為のことです。一般的には親から子へ、不動産や現金、株式などを贈与することが多いでしょう。

生前贈与は、本人の意思が明確なうちに財産を移転することで、相続時に発生しがちな遺産トラブルのリスクを軽減できる点がメリットです。また「相続時精算課税制度」や「住宅取得等資金の贈与非課税制度」などの優遇制度を活用することで、税負担を抑えながら贈与が可能になります。

1-2 生前贈与と相続の違い

生前贈与は、生きている間に財産を譲る行為に対し、相続は死亡時に発生します。

相続には法定相続人が存在し、遺言書がない場合は民法の法定相続分に基づき相続されます。一方、生前贈与は自由に受贈者を選べるため、特定の人に確実に財産を渡すことが可能です。

また、相続では相続人全員による遺産分割協議が必要になるなど、手続きが煩雑になりやすい傾向がありますが、生前贈与は贈与する人と贈与される人だけで完結するため、プロセスが比較的シンプルな点もメリットです。

ただし、生前贈与には贈与税、相続には相続税が発生するため注意しましょう。贈与税は、相続税に比べて税率が高く設定されており、単純に贈与すれば得になるとは限りません。

以下、贈与税と相続税の基本的な税率と控除の違いをまとめた表です。

贈与税の税率
課税価格(控除後)税率控除額
200万円以下10%
400万円以下15%10万円
600万円以下20%30万円
1,000万円以下30%90万円
1,500万円以下40%190万円
3,000万円以下45%265万円
4,500万円以下50%415万円
4,500万円超55%640万円
相続税の税率
法定相続人に応じた取得金額税率控除額
1,000万円以下10%
3,000万円以下15%50万円
5,000万円以下20%200万円
1億円以下30%700万円
2億円以下40%1,700万円
3億円以下45%2,700万円
6億円以下50%4,200万円
6億円超55%7,200万円

贈与と相続のどちらが適切かは、資産の種類や額、受け取る人数などを踏まえて、総合的に判断する必要があります。具体的な試算は、税理士などの専門家に相談すると安心です。

1-3 不動産の名義変更が必要な理由

不動産を贈与するには、登記簿上の所有者情報を変更する必要があります。名義変更を行わない限り、受贈者がその不動産の所有者となったことを第三者に主張できません。

登記名義が旧所有者のままだと、贈与後に不動産を売却することが難しくなります。なぜなら、旧所有者の名義になっている場合、買主に不動産の名義を移すことができず、そのような不動産を誰も購入したいと思わないためです。

したがって、贈与が成立したら速やかに名義変更を行うことが大切です。

第2章 生前贈与で不動産の名義変更を行う手順

生前贈与で不動産の名義変更を行う際は、法務局での手続きや、税務署での贈与税の申告が必要です。時期によっては混雑するため、あらかじめ余裕を持った計画を立てましょう。

また、申請ミスや書類不備があると手続きが差し戻されるため、専門家に依頼して進めた方が結果的に早く済むケースが多いでしょう。

では、生前贈与で不動産の名義変更を行う手順を解説します。

STEP① 贈与契約を締結する

まず、贈与者と受贈者の間で贈与契約を取り交わします。贈与契約を締結する際は、必ず契約書を作成するようにしましょう。

契約書には、不動産の所在地や面積を登記簿の通りに記載し、贈与日などを記載し、当事者が署名捺印します。契約書は2部作成し、双方が1部ずつ保管することが一般的です。

契約の効果には関係ありませんが、契約書には200円の収入印紙の貼付と消印が必要です。

書面によらない不動産の贈与は、贈与者の気分次第で撤回できてしまうため、口約束だけではトラブルの元になりかねません。よって、書面で明確に取り決めることが大切です。

また、契約書に記載する文言にも注意が必要です。文言が曖昧であったり、名前や不動産の表示に誤りがあると、登記が受理されない可能性があります。

贈与契約書は、トラブル防止のために公正証書で作成しておくと、より安全です。

STEP② 必要書類を収集する

登記申請のために、必要書類を揃えましょう。

  • 登記申請書
  • 贈与契約書又は登記原因証明情報
  • 登記識別情報通知(権利証)
  • 固定資産評価証明書
  • 印紙台紙
  • 贈与者の印鑑証明書(3か月以内)
  • 受贈者の住民票
  • 委任状(代理申請の場合)
  • 収入印紙

書類に不備があると申請が受理されないため、事前に法務局や専門家に確認しておくと安心です。

また、贈与による名義変更の場合、登録免許税として固定資産評価額の2%が課税されます。相続登記の登録免許税は0.4%なので、コスト面でも十分な検討が必要です。

贈与と相続、どちらで名義変更するかは税負担も考慮して判断しましょう。

なお、自治体によって取得方法や発行日数が異なる書類もあるため、繁忙期は発行までに時間がかかる場合があります。早めに準備を始め、万全の体制で登記申請を進めましょう。

STEP③ 管轄の法務局で登記申請をする

次に、不動産所在地を管轄する法務局で、所有権移転登記の申請を行います。申請方法は、窓口での直接申請、郵送、オンライン申請がありますが、初めての方は窓口申請が確実です。

申請書は、細かい要式があるため、誤字脱字や不備がないよう細心の注意を払いましょう。添付書類の提出順序やホチキス止めの方法など、形式的なルールを確認しておくことが大切です。

少しのミスが再申請の原因になるため、専門家と一緒に進めるとよいでしょう。

STEP④ 登記完了後に法務局から書類を受領する

登記が完了すると、不動産登記手続きが完了したことを通知する「登記完了証」や、今後別の登記を申請する際に必要になる「登記識別情報通知」が法務局から交付されます。

書類は今後の手続きにも必要となるため、大切に保管しておきましょう。

また、登記識別情報は今後の売却や担保設定にも必要となるため、紛失しないよう注意が必要です。

第3章 生前贈与手続を自分ですることはできる?

生前贈与と名義変更の手続きは、自分でも行うことが可能です。

しかし、実際には多くの方が途中でつまずきます。例えば、贈与契約書の不備や、必要書類の取り違え、登記申請書の記載ミスなどがよくある失敗例です。

また、不動産の評価額が高額になるケースでは、贈与税が高額になることも多く、見落とすと後に大きな問題になります。

法律上、自分で手続きすることは可能ですが、税金関連や登記など多くの知識が求められるため、現実的とはいえないでしょう。

不動産の名義変更は専門家に依頼しよう!

不動産の生前贈与を確実に行うためには、司法書士や税理士など専門家への依頼がおすすめです。

司法書士には書類作成や法務局への申請、税理士には税務対応を一括で任せられるため、手続きのミスを防ぐことができます。

また、節税効果の高い贈与方法や、最新の法改正に対応したアドバイスを受けられるのが大きなメリットです。費用は発生しますが、手間や将来のトラブルを回避できることを考えると十分に価値があるでしょう。

「住まいの賢者」では、相続を得意とする司法書士と連携し、不動産の調査から登記、売却、活用までをワンストップで支援するサービスを提供しています。

初回相談・査定は無料です。まずはお気軽にお問い合わせください。

第4章 不動産の名義変更後に起こりがちなトラブルは?

書類の不備や、他の相続人との対立など、名義変更が完了しても、思わぬトラブルが発生することがあります。不動産の名義変更後のトラブルは、事前の準備と専門家への依頼で防ぐことができるため丁寧に進めることが大切です。

では、不動産の名義変更後に起こりがちなトラブルを解説します。

4-1 書類不備で登記ができなかった

申請時の書類にミスや不足があると、登記が却下されることがあります。

特に、印鑑証明書など有効期限が厳しく設定されている書類は注意が必要です。申請が通らなかった場合、再提出や手続きのやり直しが必要となり、時間と労力が無駄になります。

時間を無駄にしないためにも、専門家に依頼をして、分からないことがあればすぐにアドバイスを受けられるように準備しておきましょう。

4-2 他の相続人とのトラブルが発生した

生前贈与が他の相続人の知らないうちに行われると、贈与者が亡くなった際の遺産分割時に揉める原因となります。「遺留分侵害額請求」が行われるリスクがあるため、慎重に検討しましょう。

遺留分侵害額請求とは、最低限の相続割合を侵害された場合に、侵害額の返還を請求できる権利のことです。遺留分侵害額が発生すると、金銭での支払いを請求することができます。

また、財産の偏った配分に対して不満を持つ相続人が出た場合、贈与によって家族間の信頼関係にヒビが入ることもあります。トラブルを避けるためにも、必要に応じて専門家に同席を依頼し、手続きを透明化させることが大切です。

4-3 認知症を発症した後に贈与契約をした

贈与契約は、本人の意思能力があることが前提です。

認知症の進行後に交わされた契約は、無効とされる可能性が高く、裁判沙汰になる恐れがあります。

また、生前贈与は財産を減少させる行為と判断されるため、成年後見制度を利用して生前贈与を行うことはできません。成年後見制度は、被後見人の財産保護が目的であるため、生前贈与はそれに反する行為に該当するからです。

贈与を検討している場合は、意思能力が確かなうちに行動に移すようにしましょう。

第5章 親子間での土地や家屋の贈与で注意すべきポイント

生前贈与を利用して、親子間で不動産贈与を行うことを考えている方は多いでしょう。しかし、親子間だからといって手続きが簡単になるわけではないため注意しましょう。

実態のない贈与や脱税目的と判断されないためにも、証拠書類を用意し、正当な手順に則った契約と登記を行うことが大切です。

では、親子間での土地や家屋の贈与で注意すべきポイントを解説します。

5-1 不動産の評価額が贈与税額に大きく影響する

贈与税は、不動産の評価額をもとに計算されます。

土地は場所や用途地域によって評価額が大きく異なり、土地の評価額が高額であるほど、課税額が大きくなります。事前に、固定資産評価証明書などで評価額を確認しておきましょう。

固定資産評価証明書とは、土地や建物などの固定資産の評価額を証明する書類のことです。市区町村で発行できるため、手元にない場合は窓口へ行きましょう。

なお、建物部分については、経年によって評価額が徐々に下がっていくため、贈与よりも相続のタイミングを待ったほうが、結果的に課税額を抑えられるケースもあります。節税の観点からは「今すぐ贈与すべきか、少し待つべきか」を慎重に判断することが大切です。

5-2 登録免許税や不動産取得税がかかる

不動産を贈与されると、登録免許税や不動産取得税が課せられます。

登録免許税額は「登録免許税額 =(課税標準)×(税率)」で計算され、法律で定められた登録免許税を納付する必要があります。不動産取得税の税率は4%ですが、土地と住宅は軽減税率で3%が適用されます。

また、登録免許税の税率は贈与の場合2%ですが、相続による登記では0.4%と大幅に軽減されます。この差は課税標準額が大きくなるほど影響があるため、登記費用だけで差が出る場合もあるでしょう。

さらに、不動産取得税は相続の場合かからないため、贈与による名義変更は税負担が重くなる傾向にあります。

費用の負担が想定より大きい場合は、相続を選択した方が結果的に有利なケースもあるため、税理士などの専門家に相談することをおすすめします。

5-3 親子間でも正しい贈与契約書を作成しないと撤回される可能性がある

親子間といえども、贈与はれっきとした法的手続きです。贈与契約書に必要な記載が漏れていたり、署名・押印がされていなかったりすると、法的効力を持たず、登記申請が却下される可能性があります。

また、誤記や書類の差し替えがあると、意図的な偽装と判断されかねません。家族間の贈与でも、書面の形式が整っていなければ撤回される可能性があるため、専門家に贈与契約書の作成を依頼すると安心です。

まとめ:不動産の名義変更は段取りがカギ!専門家の力を頼ろう

不動産の生前贈与と名義変更は、正しい知識と段取りがなければスムーズに進みません。

生前贈与は、相続トラブルの予防や節税対策として有効な手段ですが、手続きが煩雑なため、税金や法律の専門知識が必要です。少しでも不安がある場合は、司法書士や税理士など専門家の力を借りるのがベストです。

まずは、無料の初回相談を利用し、今できる準備を始めましょう。

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この記事の監修者

中西 孝志(なかにし たかし)

中西 孝志(なかにし たかし)

宅地建物取引士/FP2級技能士/損害保険募集人

約20年の実務経験を活かし、お客様の潜在ニーズを汲み取り、常に一方先のご提案をする。お客様の貴重お時間をいただいているという気持ちを忘れず、常に感謝の気持ちを持つことをモットーとしている。

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