目次
はじめに
相続の際、遺産をどのように分配するのかについて、法定相続人同士で揉めることは珍しくありません。特に、遺言書等で遺産分割が明確でないとき、不動産をどのように分配するかでトラブルに発展することがよくあります。
この際、被相続人(亡くなった人)の配偶者が主張できる権利として、「配偶者居住権」というものがあります。これは、被相続人の配偶者が、被相続人とともに住んでいた住宅に住み続けられる権利です。
しかし、配偶者居住権には、メリットだけでなくデメリットも少なからず見られます。「そもそも制度の概要が分からない」「デメリット・メリットを踏まえて配偶者居住権を利用するか考えたい」という方は多くおられます。
この記事では、配偶者居住権のデメリットについて解説します。そのうえで、配偶者居住権を利用するメリット、注意点についても触れていきます。
第1章 配偶者居住権とは
配偶者居住権とは、被相続人の配偶者が、被相続人の家に住み続けることができる権利のことです。
配偶者居住権が制度化されるまでは、「遺産を金銭価値に直して分割するために、不動産を売却する」という動きもありました。結果として、被相続人と同居していた配偶者が、住む家を無くすことになっていた実情があります。
配偶者居住権は、「居住する権利」と「所有権」を分割する考え方です。これにより、不動産の所有権は別の法定相続人が有しつつも、被相続人の配偶者は継続して自宅に住めるようになっています。
ただし、被相続人と被相続人の配偶者が別居していた場合は、配偶者居住権を得ることができません。あくまでも、被相続人と同居していた配偶者向けの制度であるためです。
また、配偶者居住権の派生として、「配偶者短期居住権」というものもあります。これは、文字通り、短期間の配偶者居住権です。
配偶者短期居住権によって、被相続人の配偶者が自宅に住み続けられるのは、遺産分割協議が終了するまで、または配偶者が亡くなった日から6か月間と定められています。
なお、配偶者短期居住権は、その権利の主張に特別の手続きを必要としません。
第2章 配偶者居住権を利用するデメリット
2-1 法律上の配偶者しか制度を利用できない
配偶者居住権は、婚姻届を提出している、法律上の配偶者のみに認められる権利です。そのため、内縁関係の配偶者には認められません。また、配偶者短期居住権に関しても同様です。これは、内縁関係の夫婦にとってはデメリットと言えます。
被相続人の内縁の配偶者が、被相続人の死亡後も継続して居住を続けたい場合、配偶者居住権以外の形で権利を引き継ぐ必要があります。
法律上の配偶者以外の方が、配偶者居住権のような権利を主張したい場合、事前に準備しておくことが必要です。相続に向けた用意を、自身で用意するのが不安な方は、司法書士等の専門家に相談されることを推奨します。
2-2 配偶者居住権は登記しておかないと第三者に対抗できない
配偶者居住権の登記をしていない場合、第三者に対抗ができなくなります。
配偶者居住権はあくまでも「居住する権利」です。物件の所有権自体は、別の相続人が有することになります。
配偶者居住権の登記をしていない場合、所有権を有する別の相続人が第三者に物件を売却・譲渡した際に、被相続人の配偶者は、第三者に対抗することができません。物件からの立ち退き等を要求される可能性も十分にあります。
これを避けるには、配偶者居住権の登記を、法務局で行っておく必要があります。これで「居住する権利」の主張が第三者にできるようになります。しかし、面倒な手続きが挟まることは否めないため、この点も配偶者居住権のデメリットです。
配偶者居住権の登記について、詳しく確認したい方は以下の記事をご確認ください。
2-3 配偶者居住権を有する配偶者だけでは不動産を譲渡・売却できない
配偶者居住権が設定された不動産は、原則は譲渡・売却ができません。
配偶者居住権を設定し、相続した段階では問題がなくとも、のちに不動産を処分したくなるケースは少なからずあります。例えば、自身の老化に伴い、老人ホームに入居するため、不動産が不要となる事例が該当します。
この際、配偶者居住権をもつ配偶者が「不動産を譲渡・売却したい」と考えても、配偶者だけでは譲渡・売却はできません。配偶者が有しているのはあくまでも「居住権」であり、「所有権」は有していないためです。
配偶者居住権を利用した不動産を譲渡・売却したい際は、不動産の所有者と共同して手続きを進めていく必要があります。この点は、通常の相続不動産では出てこない問題です。そのため、配偶者居住権を利用する際に注意すべき点、デメリットと言えます。
2-4 遺された配偶者が亡くなるまで居住権がなくなることはない
配偶者居住権は、特段の定めをしていない場合は、被相続人の配偶者が亡くなるまで継続してその権利が残ります。
一見問題がなさそうに見える部分ですが、被相続人の配偶者の状態によっては大きなデメリットとなり得ます。
例えば、被相続人の配偶者が、高齢となり認知症となった際、病院や施設に入ることを検討するケースです。この際、2-2で触れた第三者への対抗の可能性を考慮して、配偶者居住権の登記をしていたとします。
病院や施設に入るとなると、不動産を処分することも少なくありません。しかし、配偶者居住権が設定されている物件は、2-3で触れた通り売却・譲渡が困難です。配偶者居住権の自然消滅は見込めないため、時間経過による解決は難しいでしょう。
配偶者が健康体の場合、「配偶者居住権の登記の抹消」をすることで売却・譲渡がしやすくなります。しかし、認知症を発症している場合は、「意思能力がない」と判断され、登記の抹消をすることができません。結果として、ほぼ不要となった不動産の譲渡・売却が事実上不可能となる恐れがあります。
配偶者居住権を利用する際、最も気を付けたい部分の1つです。このデメリットに対してどう向き合っていくかについて、不安を感じる方は、早めに司法書士等の法律の専門家に相談しておきましょう。
2-5 不動産の所有者の負担が大きくなる
不動産を所有している場合、固定資産税の支払いが発生します。また、相続によって不動産を取得した際は、相続税等の税金の支払い義務があります。
配偶者居住権を利用した場合、実際に居住をしない所有者もこれらの税金を支払う必要があります。次の例で、どのように税金が発生するか確認します。
- 土地2,000万円、建物2,000万円の不動産を相続
- 被相続人の配偶者が配偶者居住権を利用
- 他の法定相続人は被相続人の子ども1人のみ
この場合、不動産の所有者となるのは被相続人の子どもです。被相続人の子どもは、実際に相続不動産に居住することはありません。しかし、土地2,000万円を相続したことにより、該当分の相続税の支払い義務が発生します。また、固定資産税についても、土地部分については支払い義務が発生する可能性があります。配偶者と子どもの間で、相談して税金の支払い者を定められる場合はよいですが、そうでない場合、大きなトラブルに発展する恐れがあります。
この点について、所有者にとっては、不服や不満に感じやすい部分のため、配偶者居住権のデメリットとなっています。不動産の所有者となる人物が、余計に税金を支払うことになる可能性がある点は必ず確認しておいてください。
相続税などの、不動産を相続した際に発生する税金について詳しく知りたい方は、以下の記事を併せてご確認ください。
2-6 配偶者の年齢が若いと居住権以外の遺産の取り分が少なくなる
相続時点での、配偶者の年齢が若い場合、配偶者居住権以外の遺産の取り分が少なくなる恐れがあります。これは、配偶者居住権も遺産の一部とみなされ、金銭的に換算されるためです。以下のケースで具体的に考えていきます。
- 相続時点で、配偶者の年齢は50歳
- 相続人は、配偶者と子どもの2人(それぞれの法定相続割合は2分の1ずつ)
- 相続財産は、建物2,000万円・土地2,000万円・現金2,000万円
詳細は省略しますが、配偶者居住権の遺産価値は、「配偶者の年齢が、平均寿命に近づくほど安価になる」形で計算されます。今回のケースの場合は、建物2,000万円がそのまま配偶者居住権の遺産価値に換算される可能性が高いです。この場合、配偶者は、法定相続割合に基づき、現金2,000万円のうち、2分の1にあたる1,000万円を遺産として受け取れます。
しかし、上記ケースで、配偶者の年齢が75歳だった場合、配偶者居住権の価値が大きく減額されます。半額の1,000万円程度となることも十分想定されます。
しかし、法定相続割合は、年齢によって変わることがないため、遺産の総額から3,000万円を受け取れることは変わりません。そのため、現金2,000万円も問題なく相続できます。
このように、相続時点の年齢によって、配偶者居住権以外の財産を受け取れる総量が変化する可能性があります。居住権以外の財産を多く相続したい場合は、デメリットとなりえる部分のため、注意が必要です。
第3章 配偶者居住権を利用するメリット
3-1 配偶者が自宅に住み続けられる
配偶者居住権を利用すれば、被相続人が無くなったあとも、配偶者が自宅に住み続けられます。
第1章でも触れた通り、相続の際、法定相続分通りに遺産を分配するために、相続した不動産を売却するケースもあります。この場合、被相続人の配偶者が住む家を無くす事態になってしまいます。
相続時点で、配偶者が比較的若い年齢であれば、賃貸物件を探すことも難しくありません。しかし、高齢となってからの相続になった際は、賃貸物件を借りづらい実態があります。
そのため、配偶者が自宅に住み続けられる権利が認められることは、非常に大きなメリットと言えます。
ただし、デメリットの項目でも述べた通り、配偶者居住権の登記をしていないと、第三者に対して居住権の主張をすることができません。また、認知症リスクへの対応も必須のため、この部分は注意が必要です。
3-2 配偶者が自宅だけでなく預貯金も相続しやすくなる
配偶者居住権を利用すれば、配偶者が自宅だけでなく、預貯金も相続しやすくなります。
以下のケースで例を見てみましょう。
- 相続財産は、建物1,500万円・土地1,500万円の不動産、および現金3,000万円
- 相続人は、配偶者と子どもの2人(それぞれの法定相続分は2分の1ずつ)
このケースにおいて、配偶者居住権を利用しなかった場合、不動産を相続する人と、現金を相続する人に分かれることがあります。そのため、不動産を相続した際は、現金を1円も受け取れない恐れがあります。
配偶者居住権を利用すれば、建物と土地の相続を分割できるため、配偶者が現金1,500万円を相続できます。
預貯金等の、自宅以外の財産を相続する量を増やしたい場合は、配偶者居住権の利用を検討されることを推奨します。
ただし、配偶者居住権を利用した際に、土地の所有者(別の相続人)の税負担が増えることは明確なデメリットです。あらかじめ相続人同士で、どのような扱いにすべきか相談しておくことが重要です。
相続人だけで話がまとまらない場合は、専門家に早めに相談しましょう。
3-3 二次相続対策につながる
配偶者居住権は、二次相続対策につながる可能性があります。
二次相続とは、最初に発生した相続で、相続人となった配偶者が亡くなったあとに発生する
相続です。
配偶者居住権を利用した不動産について、配偶者が亡くなると、配偶者居住権は消滅します。この際、居住権は土地の所有者(別の相続人)に移ります。
この居住権の移動は、相続による取得とはみなされません。そのため、本来建物+土地が相続税の計算対象となるところを、土地分だけが計算対象となるように変更されます。
このように、配偶者居住権は、二次相続対策につながる可能性があります。
第4章 配偶者居住権を利用するときの注意点
4-1 遺された配偶者の認知症対策をしておく
配偶者居住権を利用する際、遺された配偶者の認知症対策をしておくことが重要です。
2-3でまとめた通り、配偶者が認知症になると、意思能力がないとみなされ、不動産の譲渡・売却が完全にできなくなる恐れがあります。
そのため、認知症となる前に、成年後見人を設定する、家族信託を設定するなどの対策をしておくことが重要です。
司法書士等の専門家は、これらの法的なサポートをすることが可能です。配偶者居住権を利用する際に、無視できないデメリットのため、相談されることを推奨します。
4-2 内縁夫婦や事実婚の場合は別の相続対策が必要である
配偶者居住権を利用できるのは、法律上で認められた夫婦だけと定められています。そのため、内縁夫婦や、事実婚の場合は、配偶者居住権は認められません。内縁夫婦や事実婚の夫婦の場合は、別の相続対策が必要です。
例えば、被相続人が存命のうちに、「不動産の所有権は内縁の妻に遺贈する」と遺言書の中で明記する方法があります。これは、特定遺贈と呼ばれる手段です。
ただし、遺言書は、正しい方法で遺さないと、有効性が認められない可能性があります。作成に不安がある場合は、司法書士等の専門家にご相談ください。
4-3 配偶者居住権のデメリットが気になる場合は賃貸物件への居住を検討
ここまで見てきた通り、配偶者居住権には少なからずデメリットがあります。対策方法もありますが、「それでもデメリットが気になる」という方は、家を売却し、手放す方法もあります。
特に、比較的若いうちの相続であれば、賃貸物件への居住も十分に検討できます。不動産売却により、少なくない現金も手元にあるはずなので、居住環境をある程度自由に選べます。
実家を手放すことに抵抗が無ければ、家の売却等もご検討ください。
まとめ:配偶者居住権を利用すべきかについてお気軽にご相談ください
この記事では、配偶者居住権の概要、デメリットを中心に解説しました。そのうえで、配偶者居住権のメリットや、注意点についてまとめました。
配偶者居住権は、配偶者の住む権利を保証する制度です。しかし、利用する際の注意事項が多く、デメリットも決して少なくない制度です。そのため、そもそも配偶者居住権を利用すべきかどうか、この部分で迷われることは多くあります。
「住まいの賢者」では、不動産の相続に強い司法書士と連携し、配偶者居住権に関する相談や依頼を受け付けています。配偶者居住権のメリット・デメリットを踏まえたうえで、ケースごとに利用すべきかどうかを、専門家の目線から判断します。配偶者居住権の利用を迷っている方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。
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