目次
はじめに
相続した不動産を売却する際には、各種の税額控除を受けられる可能性があります。中でも、以下の2つは、いずれも3,000万円の控除が受けられる制度として知られています。
- 被相続人の居住用財産(空き家)を売却した場合の特例(空き家特例)
- 居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除(マイホーム特例)
それぞれに適用条件があり、間違った理解をしていると控除が受けられない可能性もあります。
この記事では、これら2つの制度の違いや使い方、申請に必要な書類、そして専門家に相談するタイミングなどを、初心者にもわかりやすく解説します。
1章 相続不動産の売却と「3,000万円控除」制度とは
相続した不動産を売却すると、多くの場合で譲渡所得が発生します。この譲渡所得に対しては所得税や住民税がかかるため、売却金額によっては大きな税負担となることもあります。
しかし不動産売却において、一定の条件を満たすことで譲渡所得から最大3,000万円まで控除が受けられる特例制度があります。これがいわゆる「3,000万円控除」と呼ばれるものです。
1-1 「空き家特例」と「居住用財産(マイホーム)の特例」の2つがある
制度としては別のものですが、3,000万円を控除する特例には次の2つがあります。
- 被相続人の居住用財産(空き家)を売却した場合の特例(空き家特例)
- 居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除(マイホーム特例)
例えば、それぞれの特例に適用される不動産はわかりやすく言えば以下のようになります。
- 空き家特例:故人が住んでいて空き家になった家
- マイホーム特例:自分も住んでいて売却を検討している家
空き家特例は、被相続人(亡くなった方)が一人で居住していた(または特定の条件で老人ホーム等に入所していた)家屋とその敷地等を、相続した方が売却する場合に使える制度です。
対してマイホーム特例は、売却する方が実際に住んでいた家屋とその敷地等を売却する場合に適用されます。例えば、相続後に自分がその不動産に居住したケースなどです。
どちらを使えるのかは、売却する不動産が誰が・いつまで・どう使っていたかによって変わります。
2章 「被相続人の居住用財産(空き家)を売却した場合の特例」(空き家特例)の適用条件と活用方法
相続した家が空き家になっている場合に活用できるのが「被相続人の居住用財産(空き家)を売却した場合の特例」です。
では、具体的にどんな条件を満たせばよいのか、次の項目で詳しく見ていきましょう。
2-1 空き家特例の基本要件
この特例を受けるには、以下のすべての条件を満たす必要があります。
- 相続開始の直前において被相続人(亡くなった方)がその家屋に居住していたこと(被相続人以外に居住者がいないこと。特定の要件を満たす老人ホーム等への入所期間も含む)
- 相続開始直前において、その家屋が昭和56年5月31日以前に建築されたものであること
- 相続開始直前において、その家屋に賃貸借契約などが付随していなかったこと
- 相続の日から譲渡の日までの間に、その家屋を事業や賃貸借、または居住していないこと。
- 相続から譲渡までの間に、その家屋またはその敷地等について相続人以外が使用、あるいは収益目的で利用していないこと。
- 譲渡の時において、一定の耐震基準を満たす建物(建物を取り壊した場合は更地)であること。
- 親子や夫婦などの「特別な関係」の人に売ったものではないこと
参考:No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例/国税庁
このように、空き家特例は対象がかなり限定される制度です。しかし、条件に合致すれば大きな節税効果が見込めるため、自分のケースが要件に合うかどうかをしっかり確認しましょう。
2-1-1 よくある勘違いポイント
空き家特例には、誤解されやすい点がいくつかあります。
まず、マンションやアパートなどの区分所有建物は対象外で、一戸建てとその敷地のみが対象です。
また、土地だけ売れば使えると思われがちですが、原則は家屋と敷地の譲渡が必要で、家屋を取り壊して更地として売却した場合に限り例外的に認められます。
さらに、誰かに住んでもらってから売却すればいいというのも誤解です。相続後に居住者がいた場合、空き家としての要件を満たさなくなり、控除は適用できません。
制度を正しく理解し、要件を満たすかを事前に確認しましょう。
2-2 空き家特例は適用可能?要件チェックリスト
自分のケースは空き家特例に当てはまるのか不安だという方も多いのではないでしょうか。適用できるかどうか知りたい方は、以下のチェックリストに答えていくだけで、制度の適用対象かどうかを自己診断できます。
すべての項目で「はい」と回答できれば適用可能です。
- 売却する不動産は相続によって取得した
- 被相続人が亡くなった(相続が開始した)のは平成29年1月2日以降
- 売却する不動産はマンションやアパートではない
- 不動産には被相続人が一人暮らしだった(または老人ホーム等に入所していた)
- 建物の建築年月日は昭和56年5月31日以前である
- 相続後に誰か住んだり、貸したりしていない
- 同じ被相続人から相続で取得した不動産の売却について、初めてこの特例を受ける
- 売却先は第三者である(配偶者や親族など特別な関係ではない)
- 売却金額は1億円以下である
- 譲渡の時までに建物を取り壊して更地にした、または耐震リフォームを行った
参考:相続した空き家を売却した場合の特例(3,000万円の特別控除(措法35条③))チェックシート/国税庁
このチェックリストは国税庁が提供しているチェックシートから作成しました。さらに詳しく知りたい方は、国税庁の公式サイトにある情報も参考にしてください。
2-3 適用に必要な書類と手続き
空き家特例を適用するには、確定申告の際にいくつかの書類を準備して提出する必要があります。以下が主な必要書類です。
- 被相続人の住民票の除票(または戸籍の附票など、相続開始直前まで居住していたことを証明する書類)
- 売却した家屋の登記事項証明書(建物の建築年月日などが確認できるもの)
- 耐震改修工事証明書(建物付きで売却する場合)または、除却工事証明書・滅失登記後の登記事項証明書(建物を取り壊して土地を売却する場合)
- 譲渡契約書(売却価格の証明)の写し
- 相続人の住民票(相続後に居住していないことの確認)
- 特例の適用に関するチェックシート
- 確定申告書B様式・分離課税用の譲渡所得内訳書など
必要書類は、個々の状況によって異なります。上記はあくまで主な書類であり、詳細は必ず国税庁のサイトをご確認いただくか、専門家にご相談ください。
書類の不備や記載ミスがあると、せっかくの特例が受けられない場合もあります。不安な方は、早めに確定申告の準備を始め、必要であれば専門家に相談すると安心です。
3章 「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除」の特例(マイホーム特例)
もう一つの3,000万円控除制度として「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除(マイホーム特例)」があります。これは、自分が住んでいた家屋や敷地等を売却した場合に使える制度で、相続後にその家に居住していたケースでも対象となる可能性があります。
次の項目では、このマイホーム特例を使うための基本的な条件について詳しく解説します。
3-1 マイホーム特例の基本要件
居住用財産の3,000万円控除を受けるには、いくつかの基本条件を満たす必要があります。
- 売主(譲渡する方)が、その家屋に居住していたこと、またはその家屋と敷地等が生活の本拠であったこと
- 住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却していること
- 売却した年の前年及び前々年にこの特例の適用を受けていないこと
- マイホームの買換えやマイホームの交換の特例の適用を受けていないこと
- 売却した家屋や敷地等について、収用等の場合の特別控除など他の特例を受けていないこと
- 生計を一にする配偶者、親族などに対する譲渡でないこと(家族間売買は原則対象外)
参考:No.3302 マイホームを売ったときの特例/国税庁
相続によって取得した不動産であっても、相続人自身がその後居住し、これらの要件を満たして売却した場合にはこの制度が使えます。
ただし、相続してすぐに売却した場合や、実際には住んでいないのに住民票だけ移していたような場合は適用されない可能性があるため注意が必要です。
3-2 マイホーム特例は適用可能?要件チェックリスト
マイホーム特例が使えるかどうかを判断するには、いくつかの確認ポイントがあります。誤って申請できないという事態を避けるためにも、次のような点をチェックしましょう。
- 自分(売却者)が実際にその家に居住していた
- 売却した家屋から転居したのは令和2年1月2日以降である
- 売却した家屋には自分に所有権があった
- 売却先は第三者である
- 店舗兼住宅のように住まいとして利用していない部分はなかった(物件のすべてを住居として利用していた)
- 今回売却する住まい以外の居住用財産について、住宅ローン控除などの適用を受けていない
- 売却した年の前年、前々年にこの特例の適用を受けていない
参考:居住用の家屋や敷地(居住用財産)を譲渡した場合の特例チェックシート/国税庁
これらの要件がすべて「はい」ならば、最大3,000万円の控除を受けることができます。売却益が出たとしても、うまく特例を活用すれば税金が大幅に軽減される可能性があります。
相続不動産でマイホーム特例を使えるかどうかは、「同居していたか」「相続後に居住したか」で判断が分かれます。被相続人と同居していた場合は、居住を継続し要件を満たせば適用可能性が高く、住民票と生活実態の証明がカギになります。
一方、相続後に住み始めた場合も、一定期間実際に居住していたと認められれば対象になることがあります。ただし、短期居住や形だけの居住は不可とされることもあるため、住民票だけでなく、水道光熱費の明細や郵便物など生活の証拠をそろえることが大切です。
3-3 申請に必要な書類と流れ
居住用財産の3,000万円控除(マイホーム特例)を受けるには、確定申告の際に以下のような書類を準備して提出する必要があります。
- 売却した家屋や敷地等の登記事項証明書(不動産の所有者、所在地、面積などが確認できる書類)
- 売主(譲渡する方)の住民票の除票(売却した物件に居住していたことの証明)
- 売買契約書(譲渡金額などの詳細を確認するため)の写し
- 売却した不動産の取得時の契約書や、購入代金・建築費の領収書
- 譲渡費用(仲介手数料、印紙税など)の領収書
- 譲渡所得の内訳書(分離課税用)
- 確定申告書B様式
参考:居住用の家屋や敷地(居住用財産)を譲渡した場合の特例チェックシート/国税庁
住んでいたことの証明には、住民票だけでなく、公共料金の明細や郵便物などの補足資料があるとなお良いでしょう。
必要書類は、個々の状況によって異なります。上記はあくまで主な書類であり、詳細は必ず国税庁のサイトを確認するか、税務署または税理士にご相談ください。
4章 3,000万円控除の併用は可能?制度の併用と排他のルール
空き家特例とマイホーム特例を両方使えば、さらに節税できると考える方もいるかもしれません。しかし残念ながら、同一の不動産の譲渡においては空き家特例とマイホーム特例の両方を同時に適用することはできません。
これらの3,000万円控除は、いずれか一方のみの適用となります。例えば、空き家特例を使った場合は、同じ譲渡に対してマイホーム特例を併用することはできません。
ただし、別々の不動産をそれぞれ売却するケースでは、それぞれの不動産が要件を満たせば、それぞれに適用可能です。例えば、一方の不動産に空き家特例、もう一方の不動産にマイホーム特例とを使い分けることはできます。
また、3,000万円控除以外にも「居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の軽減税率の特例」など、他の特例との併用が認められているケースもあります。
以下の表は、主な制度の併用可否をまとめたものです。
制度名 | 空き家特例と併用 | マイホーム特例と併用 |
---|---|---|
3,000万円控除(空き家特例) | ― | ✕ |
3,000万円控除(マイホーム) | ✕ | ― |
軽減税率の特例 | △(条件付き) | 〇 |
上記の表は一般的なケースを示しており、具体的に適用できるかどうかは不動産の状況や所有期間、その他の適用要件にもよります。
5章 3,000万円控除には確定申告が必要
3,000万円控除の特例を利用するためには、確定申告が必須です。たとえ控除によって譲渡所得がゼロになり、税額が0円になる場合でも、申告をしなければ特例は適用されません。
控除を受けるためには、自分で確定申告を行い、必要書類を提出して特例を申請するというステップが欠かせないのです。
次の項目では、具体的な申告方法と流れについてご紹介します。
5-1 確定申告の手続き
確定申告には主に3つの方法があります。
- e-Tax(インターネット申告)
- 郵送
- 税務署へ持参
e-Taxを使えば、パソコンやスマホから申告書を作成・提出できます。マイナンバーカードがあれば電子申告も可能です。
申告書を印刷して税務署に郵送する方法もあり、消印の日付が提出日になります。
税務署へ直接持参も可能ですが、確定申告期間中は混雑が予想されるため、早めに手続きに出向くようにしましょう。
まとめ:税金を抑えるために専門家へ相談しよう
相続不動産の売却では、「空き家特例」と「マイホーム特例」の2つの3,000万円控除を理解することが大切です。
条件や手続きが異なるため、自分に合う制度を見極めましょう。これらの特例は確定申告が必要で、書類や期限の管理も欠かせません。不安がある場合は、税理士や不動産会社など専門家に相談することで、控除の漏れや手続きミスを防げます。
専門家に相談する最適なタイミングは、不動産を売却する前です。
売却後に「控除を使いたい」と思っても、契約済みや不動産の状況変更により、条件を満たせなくなることがあります。適切なタイミングで相談すれば、控除の漏れや申告ミスを防ぎ、結果として税金を抑えることにもつながります。
相続不動産の売却を考え始めた時点で、控除の利用可否も含めて専門家へ相談しましょう。
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