相続不動産売却の税金をシミュレーションで解説|控除や申告もわかる

相続不動産売却の税金をシミュレーションで解説|控除や申告もわかる
監修者: 中西孝志

はじめに

相続した不動産を売却したいけれど、税金がいくらかかるのだろうと不安に感じている方もいるかもしれません。

相続不動産の売却には、譲渡所得税をはじめとした複数の税金が関係します。特に次のようなポイントを把握しておくことで、納税額を大きく左右することもあります。

  • 売却の際にどのくらいの税金が発生するのか
  • どの特例や控除が使えるのか

この記事では、実際のシミュレーション事例を通じて、税額の目安を紹介します。

また、売却時にかかる税金の種類や譲渡所得の具体的な計算方法、さらには3,000万円特別控除など節税につながる特例・控除までを詳しく解説します。

1章 相続した不動産を売却する際に関係する税金は5種類

相続した不動産を売却する際、税金がいくらかかるのかは誰もが気にする点でしょう。

相続不動産を売却する上で関係する税金は、主に次の5種類あります。

  • 登録免許税
  • 譲渡所得税
  • 住民税
  • 復興特別所得税
  • 印紙税

それぞれのタイミングや条件によって課税される税金が異なるため、全体像を把握しておくことが大切です。

この章では、「相続登記時」「売却時」「売却後」に発生する税金の種類を、わかりやすく整理して解説します。

ややこしいように感じても、ポイントを押さえて理解すれば決して難しくありません。まずは全体の流れと税金の種類を見ていきましょう。

1-1 【相続登記時にかかる】登録免許税

相続した不動産を自分の名義に変更するためには、相続登記という手続きが必要です。このときにかかる税金が登録免許税です。

これは不動産の評価額に基づいて課税され、税率は0.4%です。

たとえば、評価額が2,000万円の土地の場合、登録免許税は以下のように計算できます。

2,000万円×0.4%=8万円

なお、不動産の評価額には複数の種類がありますが、相続登記の際に登録免許税を計算するのに利用されるのは原則として固定資産税評価額です。

相続税を計算する際に使われる相続税評価額とは異なるので注意しましょう。

固定資産税評価額は課税明細書に記載されています。または、不動産が所在する市区町村役場の資産税担当課や都税事務所で取得できる固定資産評価証明書から確認できます。

取得時に必要になる書類等は以下のとおりです。

  • 本人確認書類
  • 相続人であることを証明する書類(戸籍謄本など被相続人との関係がわかるもの)
  • 印鑑
  • 手数料
  • 郵送の場合は申請書や返信用封筒、手数料分の定額小為替など

自治体によっては、コンビニエンスストアのマルチコピー機からマイナンバーカードを利用して取得できるところもあります。

なお、相続登記は2024年4月1日から申請が義務化されています。不動産を相続により取得したことを知った日から3年以内に相続登記の申請をしなければならず、正当な理由なく登記を怠ると10万円以下の過料が科せられる可能性もあります。

1-2 【売却後に利益が出たらかかる】譲渡所得税・住民税・復興特別所得税

相続した不動産を売却して利益(譲渡所得)が出た場合、「譲渡所得税」「住民税」「復興特別所得税」の3つが課税されます。これらはまとめて譲渡所得に対する税金と呼ばれ、売却益があるときに初めて発生するものです。

課税対象となる譲渡所得は、譲渡価格から取得費と譲渡費用を差し引いた額で計算されます。ここで重要になるのは、利益が出なければ譲渡所得に対する税金は基本的に課税されないという点です。

たとえば、相続した不動産を相場より安く売却した場合など、譲渡所得がゼロまたはマイナスであれば、確定申告をする必要がないケースもあります。

1-2-1 譲渡所得の基本的な計算式

譲渡所得税を計算するには、まず譲渡所得を求める必要があります。基本的な計算式は以下の通りです。

譲渡所得=譲渡価格-(取得費+譲渡費用)

譲渡価格とは、不動産を売った価格です。

取得費は被相続人が不動産を購入した当時の価格に加えて、購入時にかかった仲介手数料や建築費、不動産取得税などの税金を合わせた金額になります。

譲渡費用は売却にかかった仲介手数料や測量費用などが該当します。

もし被相続人が取得費の資料を残していない場合は、譲渡価格の5%を取得費として扱う概算取得費を使って計算します。ただし、この方法では譲渡所得が大きくなりやすいため、税額が高くなる可能性があります。

例えば、以下のような前提条件で実際に計算してみましょう。

  • 譲渡価格:2,000万円
  • 取得費(被相続人が購入した金額):1,000万円
  • 譲渡費用:100万円

この場合の譲渡所得は以下の通りです。

2,000万円ー(1,000万円+100万円)=900万円

しかし取得費がわからなかった場合、概算取得費は以下のようになります。

2,000万円×5%=100万円

概算取得費で譲渡所得を計算すると、以下の金額になります。

2,000万円ー(100万円+100万円)=1,800万円

このように、概算取得費で計算すると譲渡所得は大きくなります。利益が多くなる分、課税対象額も増えるので、支払うべき税額も高くなってしまいます。

1-2-2 所有期間による税率の違い

譲渡所得にかかる税率は、不動産の所有期間によって大きく異なります。以下のように5年を境として短期と長期で二分され、それぞれ税率も異なります。

短期譲渡所得(所有期間5年以下)長期譲渡所得(所有期間5年超)
所得税30%15%
住民税9%5%
復興特別所得税0.63%(基準所得税額の2.1%)0.315%(基準所得税額の2.1%)
合計税率39.63%20.315%

所有期間とは、被相続人が不動産を取得してから相続人が売却するまでの期間です。相続してすぐに売却した場合でも、被相続人の保有期間を引き継ぎます。

つまり、被相続人が5年以上保有していた物件ならば、相続後の所有期間が短くても長期譲渡所得の税率が適用されるということになります。

売却のタイミングによっては税率が約2倍も変わるため、節税の観点からも所有期間を正しく確認することは非常に重要です。

1-3 【売買が成立したらかかる】印紙税

不動産の売買契約が成立した際には、印紙税も必要です。印紙税の印紙とは、売買契約書に貼る収入印紙のことであり、契約金額によって税額が決まります。

詳しい金額と税額は以下の表に示す通りです。なお、印紙税は軽減措置がとられており、2027年3月31日までに作成された契約書に限り軽減税率が適用されます(2025年5月現在)。

契約金額(売買金額)軽減税額(~2027年3月31日まで)
1万円未満非課税
10万円超50万円以下200円
50万円超100万円以下500円
100万円超500万円以下1,000円
500万円超1,000万円以下5,000円
1,000万円超5,000万円以下10,000円
5,000万円超1億円以下30,000円
1億円超5億円以下60,000円

たとえば、1,000万円以上5,000万円以下の売買契約書には1万円の印紙を貼付する必要があります(令和9年3月31日までの軽減措置適用時)。

もし印紙を貼り忘れたり金額が不足したりしていると、税務署から指摘を受けて過怠税が課されることがあるため、注意が必要です。

2章 相続不動産の売却にかかる税金(譲渡所得税)シミュレーション

前章では相続不動産を売却する際にかかる税金の種類や計算方法の基本を解説しました。ここでは、実際の数値を用いて、譲渡所得にかかる税金の金額シミュレーションを行ってみましょう。

税金のシミュレーションというと難しく感じるかもしれませんが、ポイントを押さえれば計算自体はシンプルです。

では、具体例をもとに見ていきましょう。

2-1 【ケース1】被相続人が一人で住んでいた家屋を相続人が居住せず3,000万円で売却(3,000万円特別控除あり)

前提条件は以下のとおりです。

相続人の取得価格不明(概算取得費:売却価格の5%=150万円)
譲渡費用50万円(仲介手数料・測量費など)
売却価格3,000万円
特例空き家の3,000万円特別控除を適用
所有期間10年以上(相続により取得。被相続人の所有期間を引き継ぐ)
税率長期譲渡所得(所得税15%+住民税5%+復興税0.315%=約20.315%)

この場合の譲渡所得は次のように計算できます。

3,000万円-(150万円+50万円)=2,800万円

被相続人が一人暮らししていた家屋なので、被相続人の居住用家屋(空き家)に係る3,000万円の特別控除が適用できたとします。空き家の3,000万円控除については、3章で詳しく解説します。

適用した場合、譲渡所得から3,000万円控除されるため、以下のような計算になります。

2,800万円ー3,000万円=ー200万円

この場合、課税されるべき所得がマイナスとなり、税金はかかりません。控除を申請するために確定申告は必要になりますが、納税額は0円です。

2-2 【ケース2】住居として使っていなかった相続不動産を5,000万円で売却(取得費判明・控除なし)

別荘など一時的な滞在にのみ利用されていた相続不動産を売却したケースです。前提条件は以下の表に示します。

相続人の取得価格2,000万円(登記簿や契約書で確認)
譲渡費用200万円
売却価格5,000万円
特例特別控除なし(自宅として使用していなかった)
所有期間10年以上
税率長期譲渡所得(所得税15%+住民税5%+復興税0.315%=約20.315%)

譲渡所得は以下の計算の通りです。

5,000万円-(2,000万円+200万円)=2,800万円

被相続人の住居ではなく、相続人が自宅としての利用もしていなかったため、3,000万円控除の特例は今回適用しなかったとします。控除が適用されなかったため、税額は以下のとおりです。

税額=2,800万円×20.315%≒569万円

このケースでは、約569万円の譲渡所得に係る税金が発生します。

3章 相続不動産の売却に適用できる特例と控除

相続不動産の売却時に不安となる譲渡所得税ですが、一定の条件を満たせば節税につながる特例制度がいくつか用意されています。なかでも代表的なのが以下の3つです。

  • 相続税の取得費加算の特例
  • 居住用財産の3,000万円特別控除(マイホーム特例)
  • 空き家の3,000万円特別控除(空き家特例)

取得費加算の特例は、相続税のうち売却した不動産に対応する金額を取得費として加算できる制度です。

取得費が増えれば譲渡所得が減り、課税額も軽減されます。

相続から3年10か月以内の売却が適用の条件です。

次にマイホーム特例は、相続人自身が相続した不動産に居住していたうえで売却する場合、譲渡所得から最大3,000万円を控除できる制度です。

ただし、被相続人が住んでいたというだけでは適用できません。必ず相続人の居住実績が必要です。

一方、2章のシミュレーションでも利用した空き家の3,000万円特別控除は、被相続人が一人暮らししていた家屋を相続後に売却する際、一定の要件を満たせば適用されます。

対象となるのは、昭和56年5月31日以前の建築で、耐震性の確保や取り壊し済みなどが条件です。

これらの特例は高額な節税につながる可能性がある一方で、細かな要件や期限が定められています。

4章 税金がかかっても相続不動産を売却することで得られるメリット

税金がかかるなら相続不動産は売却しないほうがいいのでは、と迷うこともあるかもしれません。しかし、相続した不動産を売却することで得られるメリットは金銭面だけではありません。

たとえ譲渡所得税などの負担が発生したとしても、それ以上に大きなメリットが得られるケースも多いのです。ここでは、不動産を売却することで得られる主なメリットを3つご紹介します。

4-1 維持管理の負担がなくなる

相続した不動産をそのまま保有する場合、定期的な清掃や修繕、固定資産税の支払いなど、さまざまな維持管理の負担が生じます。遠方に住んでいる場合は、通う時間やコストも大きな負担になるでしょう。

売却すれば、こうした手間や経済的負担から解放され、精神的なゆとりも生まれます。不動産の処遇についての悩みを早めに解決できる点も大きなメリットです。

4-2 空き家になることで生じるトラブルを防げる

使わないまま放置された空き家は、老朽化や雑草の繁茂、防犯面などさまざまなリスクを抱えています。例えば放置されて古くなった瓦が落下してケガをさせるなど、近隣住民とのトラブルにつながることも少なくありません。

こうしたリスクを未然に防ぐためにも、空き家の状態になる前に売却を検討しましょう。

4-3 相続金を平等に分配できる

相続人が複数いる場合、不動産を現物のまま相続するよりも、売却して現金化したほうが分配しやすく、公平性を保つことができます。

不動産は同じ土地・建物でも相続人の立場によって価値の感じ方が異なるため、争いのもとになることもあります。売却して現金に換えれば、相続トラブルの回避にもつながるでしょう。

5章 確定申告が必要な場合の手続き

相続不動産を売却した後、確定申告の要否や準備すべきことに不安を感じる方も多いでしょう。

以下のいずれかに該当する場合は、確定申告が必要です。

  • 譲渡所得が発生した場合(利益が出た場合)
  • 特例や控除(取得費加算、3,000万円控除など)を適用したい場合

一方で、確定申告が不要とされるのは、譲渡益が出ておらず、特例も利用しないケースです。ただし、節税のチャンスを逃さないためにも、専門家と相談の上で申告の可否を判断しましょう。

5-1 確定申告の期限と提出方法

確定申告の提出期限は、売却した年の翌年の2月16日から3月15日までです。この期間を過ぎると、無申告加算税や延滞税が科される可能性があるため、注意が必要です。

申告方法は、次の3つから選べます。

  • 税務署に直接提出
  • 郵送で提出
  • e-Tax(インターネット)で電子申告

近年はe-Taxの利用が推奨されており、自宅からでも申告ができるので便利です。

5-2 確定申告に必要な書類

確定申告時には、以下のような書類を用意しておく必要があります。

  • 不動産売買契約書(コピー)
  • 登記簿謄本(登記事項証明書)
  • 譲渡費用の領収書(仲介手数料、測量費など)
  • 相続税申告書(取得費加算の特例を使う場合)
  • 被相続人の取得費に関する資料(あれば)
  • マイナンバーが確認できる書類
  • 本人確認書類

参考:資産税関係添付書類等一覧表(令和6年分用)/国税庁

これらの書類をあらかじめ整理しておくことで、申告時の手間を減らせます。

まとめ:相続不動産を売却したときの税金シミュレーションは専門家へご相談ください

相続した不動産を売却する際は、譲渡所得税を中心に複数の税金が発生します。計算式そのものはシンプルでも、取得費の算出や各種控除の適用条件は意外と複雑です。

相続不動産の売却で悩む方にとって、最も重要なのは、正確な情報に基づいて判断し、必要に応じて専門家に相談することです。無理に一人で対応しようとせず、税理士や不動産会社など信頼できるプロのサポートを活用することで、節税も安心も両立できます。

まずは、自分の状況に合った対応策を把握し、賢く不動産を売却しましょう。

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この記事の監修者

中西 孝志(なかにし たかし)

中西 孝志(なかにし たかし)

宅地建物取引士/FP2級技能士/損害保険募集人

約20年の実務経験を活かし、お客様の潜在ニーズを汲み取り、常に一方先のご提案をする。お客様の貴重お時間をいただいているという気持ちを忘れず、常に感謝の気持ちを持つことをモットーとしている。

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