目次
はじめに
親の高齢化に伴い、実家の売却を検討する方が増えています。特に相続前に売るべきか、相続後に売るべきかといったタイミングや、手続きの流れ、費用、心理的な負担など悩みは尽きません。
この記事では、実家の売却に関する基本的な知識から、相続前後の違い、手続きの流れ、費用、心理的な側面まで、初心者の方にもわかりやすく解説します。
1章 実家を売却する流れと手続き
実家を売却するには、いくつかの段階を経て進める必要があります。特に相続が関係する場合は、登記や税金など複雑な手続きが伴うため、事前に流れを把握しておくことがとても大切です。
突然の売却や急な相続では混乱しがちですが、基本的な流れを理解しておけば慌てずに対応できます。
1-1 実家売却の流れ
実家の売却には、主に次の9つのステップがあります。
- 相続登記する
- 不動産の査定を受ける
- 必要書類を準備する
- 家財を整理し片付け・引っ越しをする
- 不動産会社と媒介契約を締結する
- 販売活動を行う
- 買主と売買契約を交わす
- 家を引き渡して所有権移転登記を手続きする
- 不動産会社へ費用を支払う
相続が発生している場合、売却の手続きに入る前にまず相続登記を行います。不動産の名義が親のままの場合は売却できないため、忘れず手続きしましょう。
次に、不動産会社に査定を依頼し、適正な売却価格の目安を確認します。その後、登記簿謄本や固定資産税納税通知書などの必要書類を準備します。
家財の整理や引っ越しを終えたら、不動産会社と媒介契約を結びます。そして販売活動が始まり、買主が見つかれば売買契約を交わします。
最後に引き渡しと所有権の移転登記を行い、不動産会社へ仲介手数料などの費用を支払って完了です。
1-2 信頼できる不動産会社の選び方
実家の売却を成功させるためには、信頼できる不動産会社を選ぶことが重要です。なぜなら、不動産会社の対応力や提案力によって、売却価格や売却までのスピードが大きく左右されるためです。
まずは、ネットでの一括査定サービスを活用し、複数の会社から見積もりを取って比較しましょう。不動産の相場感をつかむうえでも役立ちます。
次に確認したいのが、その会社の実績や口コミです。実際に売却を依頼した人の声は、サービスの質を知る貴重な情報源です。そして、担当者との相性や対応の丁寧さも見逃せません。質問にしっかり答えてくれるか、親身になって対応してくれるかなど、人柄も判断材料の一つになります。
1-2-1 買取業者と仲介業者の違い
実家を売却する方法には、買取と仲介の2つがあります。それぞれにメリット・デメリットがあるため、自分の状況に合った方法を選ぶことが大切です。
買取業者とは、不動産会社が不動産を直接買い取るスタイルです。すぐに現金化できるのが最大のメリットで、急いで売りたいときや、古くて売れにくい物件に向いています。ただし、相場よりも安くなる傾向があります。
一方、仲介業者は売主に代わって買主を探してくれる存在です。市場価格で売れる可能性が高い反面、買主が見つかるまで時間がかかることがあります。
どちらを選ぶかは、売却を急ぐのか、それともできるだけ高く売りたいのかなど、自分が優先したいことによって判断しましょう。
1-2-2 媒介契約の種類
実家の売却を不動産会社に依頼する際には、「媒介契約」を結ぶ必要があります。これは、どのような形で物件を売却するかを取り決める重要な契約で、大きく分けて次の3種類があります。
- 一般
- 専任
- 専属専任
一般媒介契約は、複数の不動産会社に同時に依頼できる自由度の高い契約です。ただし、販売活動が分散しやすく、売却の進捗状況を自分で管理する必要があります。
専任媒介契約は、1社のみに依頼する代わりに、販売状況の定期報告などが義務づけられており、より密なサポートが受けられるのが特長です。
専属専任媒介契約は専任とほぼ同じですが、自分で見つけた買主との直接取引が禁止されている点が異なります。サポート体制が手厚い一方、自由度はやや低くなります。
それぞれの特徴を理解し、自分の状況に合った契約を選びましょう。
2章 実家の売却にかかる費用と税金
実家を売却する際は、いくらで売れるかに注目しがちですが、売却するまでにさまざまな費用や税金が発生します。これらを事前に理解していないと、手元に残る金額が予想より少なくなってしまうこともあります。
特に相続が絡む場合、特例や控除の有無によって納税額に大きな差が出ることもあるため、注意が必要です。
この章では、実家の売却に伴って発生する代表的な費用や税金の種類をわかりやすく解説します。
2-1 売却時に発生する費用
実家を売却する際には、以下のような費用が発生します。
費用の種類 | 金額の目安 | 支払いのタイミング |
---|---|---|
仲介手数料 | 売却価格の3%+6万円+消費税(上限あり) | 売買契約締結時・引き渡し時に分割が一般的 |
登記費用(抵当権抹消など) | 数万円~10数万円程度(必要な登記の種類が多くなれば高くなる) | 引き渡し前に司法書士へ支払い |
引越し費用(住んでいた場合) | 数万〜数十万円 | 引越し業者利用時に支払い |
まず代表的なのが、不動産会社に支払う仲介手数料です。これは売却できた際の成功報酬で、売買契約が成立しなければ支払う必要はありません。数百万円~数千万円単位での取引になるため、手数料もそれなりに高額になることがあります。
次に登記費用が必要になります。これは所有権移転などの登記手続きを司法書士に依頼する際の報酬を含みます。
また、家の引っ越しや、残った家財の処分にも費用がかかります。遺品整理や不用品回収には思った以上にコストがかかることもあるので注意が必要です。
これらをあらかじめ見積もっておくことで、売却後に思わぬ費用がかかって後悔することを防げます。
2-2 実家の売却に関してかかる7つの税金
実家の売却では、複数の税金が課税されます。特に相続が関係する場合、税金の種類や計算方法が複雑になりがちです。
- 相続税
- 譲渡所得税・住民税・復興所得税
- 登録免許税
- 印紙税
- 贈与税
ここでは、主に相続不動産に関係する上記7つの税金について簡単に紹介します。
相続税は相続が発生した際にかかる税金で、基礎控除を超える遺産を相続した場合に発生します。
譲渡所得税・住民税・復興所得税の3つは売却によって利益(譲渡所得)が出た場合にかかる税金です。譲渡所得の種類や不動産を所有している期間に応じて税率は変動します。
登録免許税は所有権の移転登記や相続登記を行う際に必要な税金です。
印紙税とは売買契約書を作成する際に貼付する印紙代で、売買金額によって金額が決まります。
場合によっては贈与税が必要なケースもあります。例えば、生前に実家を親から譲り受けて売却するケースでは、贈与とみなされて課税されることもあります。
2-3 実家の売却に関する特例・控除
実家を売却する際に適用できる特例や控除を活用すれば、税金の負担を大きく軽減できます。制度を正しく理解し、条件を満たしているかどうかを事前に確認することが大事です。
実家を相続した場合にまず知っておきたいのが、相続税の基礎控除です。これは、遺産総額が一定額以下であれば相続税がかからないという制度で、控除額は以下のように計算されます。
3,000万円+600万円×法定相続人の数
さらに、小規模宅地等の特例は、一定の条件を満たせば、相続税の評価額を最大80%減額できる制度です。特に親と同居していたケースや、一定期間内に売却する場合に適用される可能性があります。
その他、「空き家の3,000万円特別控除」や「居住用財産の3,000万円控除」といった制度があります。これは実家を売却して利益が出た場合、条件を満たせばそのうち3,000万円までは課税されないという特例で、譲渡所得税の大幅な軽減につながります。
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これらの特例は、申請手続きや適用条件が細かく定められているため、売却する前に税理士などの専門家に相談しましょう。
3章 実家を売却する前に確認すべき2つのポイント
実家の売却をスムーズに進めるには、売却の準備段階で確認しておくべき重要なポイントがあります。
確認不足のまま手続きを始めると「名義が違っていた」「相続人が複数いて意見が割れた」などの問題が出る可能性があり、売却に大きな遅れが出ることもあり、注意が必要です。
この章では、特に注意したい2つの確認ポイントを取り上げ、どんな点に気をつけるべきかを具体的に解説します。
3-1 実家の不動産名義と権利関係はどうなっているか
実家を売却する際、まず最初に確認すべきなのが不動産の名義です。売却できるのはその不動産の名義人だけですので、登記簿を確認して誰の名義になっているかを把握することが大切です。
もし既に親が亡くなっている場合は、相続登記をしていないと売却できません。
また、登記簿に住宅ローンの担保などの抵当権の登記が残っていないかについても確認が必要です。抵当権の登記が残っている場合は、売却前に抹消手続きをしなければなりません。
不動産の権利関係は一見わかりにくく感じるかもしれませんが、登記簿を見ればわかります。誰が所有者になっているのか、抵当権はついているのかなどを確認したい場合は法務局で登記簿謄本(全部事項証明書)を取り寄せましょう。
3-2 実家が共有名義になっているかどうか
実家の名義が売却者一人だとわかっていれば確認は不要ですが、共有名義になっている場合は注意が必要です。
実家が共有名義の場合、売却するには全ての共有者の同意が必要になります。誰か1人が勝手に売却することはできないため、事前にしっかり話し合いをしておかなければなりません。
たとえば、親が亡くなって兄弟姉妹など複数人で相続したケースでは、不動産が共有状態になっていることがよくあります。
もし共有者の中に連絡が取れない人がいたり、売却に反対する人がいる場合は、売却が進まない可能性もあります。そうなった場合は遺産分割協議をやり直すか、家庭裁判所に共有物分割調停を申し立てる必要も出てくるでしょう。
共有名義のままでは管理や将来的なトラブルの原因にもなるため、できれば売却前に他の共有者から持分を買い取って単独名義に変更することも選択肢の一つです。
4章 実家を売却するタイミングは相続前?相続後?
実家を売却する際に、売却のタイミングは非常に重要です。いつ売却するかによって、税金や手続きの負担、最終的に手元に残る金額が大きく変わる可能性があります。
相続前に売却する場合、親が元気で判断能力があるうちに売却することで、「居住用財産の3,000万円控除(マイホーム特例)」や「所有期間10年超の軽減税率」などの税制優遇が受けられることがあります。
親が生きている間に売却すれば、売却益を介護資金に充てたり、相続人同士のトラブルを回避できるメリットもあります。ただし、親が認知症になると売却できなくなるため、委任状の準備や成年後見制度の利用の検討の必要があります。
名義変更なしに家族が売却すると贈与税が課される恐れもあるため、法的な確認も重要です。
一方、相続後に売却する場合は「空き家の3,000万円特別控除」が適用される可能性があり、相続登記を済ませていれば手続きもスムーズに進みます。売却代金を相続人で分けたり、相続税の納税資金に充てられるといった利点もあります。
ただし、古い家は売れにくく、長期間放置すれば固定資産税や管理費が負担になることもある点には注意しましょう。2024年からは相続登記が義務化されており、怠ると過料の対象になる可能性があります。
税務面、家族の状況などをふまえ、後悔のないタイミングでの判断を心がけましょう。
5章 実家が売れないときの対処方法
いざ実家を売却しようとしても、思ったように買い手が見つからないこともあります。立地の悪さや建物の築年数など、売れにくい原因はさまざまです。
この章では、実家がなかなか売れないときに試すべき具体的な対処法を紹介します。
5-1 物件の魅力を引き出す工夫をする
実家が売れないときは、まず見た目の印象を見直してみましょう。物件の第一印象は内覧の成否を大きく左右します。
ハウスクリーニングや簡易的なリフォームでも効果があります。例えば、壁紙を張り替えたり、床を磨くだけでも清潔感が高まって住みやすい印象になるでしょう。
また、古い家であっても、丁寧に手入れされている様子が伝われば大切に使われてきた家という印象を与えることができます。
さらに、不動産会社と相談して魅力を引き出すポイントを明確にし、写真やキャッチコピーに反映させることも効果的です。
5-2 価格設定を見直す
実家がなかなか売れない場合、原因のひとつとして価格設定が相場より高すぎることが考えられます。
どれだけ魅力的な物件でも、相場と比べて割高であれば買い手は敬遠しがちです。まずは、近隣の類似物件の販売価格を調査して、自分の物件の価格が適切かどうかを見直してみましょう。
また、複数の不動産会社に査定を依頼し、価格の妥当性を比較することも有効です。一括査定サービスなどを活用すれば、手間をかけずに複数の意見を得られます。不動産会社によって評価のポイントが異なるため、複数社の意見を聞くことで客観的な判断ができます。
価格を少し下げるだけで、購入希望者からの問い合わせが急に増えることもあります。売れ残るより、多少価格を調整して早く売るという考え方もひとつの選択肢です。感情だけで価格を決めず、冷静に市場と向き合ってみましょう。
5-3 相続土地国庫帰属制度を利用する
実家をどうしても売却できず、管理や維持が困難になった場合の選択肢として、相続土地国庫帰属制度を検討することもできます。これは、不要になった土地を国に引き取ってもらえる制度で、2023年から新たに導入されました。
ただし、この制度を利用するには、例えば次のような条件を満たす必要があります。
- 土地に建物が建っていないこと
- 隣接する土地との境界が明確であること
- 有害物質の除去がされていること など
利用には審査と負担金(概ね20万円程度)が必要となるため、事前準備が欠かせません。審査に日数がかかることも知っておきましょう。
相続した実家の土地がどうしても売れない、管理の負担が大きいと感じている方には、選択肢のひとつとして知っておいて損はない制度です。ただし、手続きはやや複雑なため、司法書士や行政書士など専門家のサポートを受けながら進めると安心です。
5-4 寄付を検討する
実家が売れず、相続土地国庫帰属制度の利用も難しい場合、最終手段のひとつとして寄付を検討する方法もあります。たとえば、市区町村やNPO法人、地域の福祉団体などに対して、土地や建物を無償で提供することで、社会貢献につなげるという選択です。
ただし、寄付を受けてもらえるかどうかは相手の事情によるため、必ずしもすぐに受け入れてもらえるわけではありません。管理責任や将来的な維持費が発生するため、自治体や団体側は受け入れに慎重です。また、個人から法人に無料で譲渡した場合は「みなし譲渡」とされ、市場価格でその不動産を売却したのと同じ所得税を支払う必要があるのもデメリットといえます。
そのため、必ず事前に相談を行い、必要であれば受け入れ先が提示してきた条件を整えることも検討しましょう。
売却や処分が難しい不動産でも、誰かの役に立つ形で活かすという発想に切り替えることで、気持ちの整理にもつながるかもしれません。
まとめ:後悔のない実家売却のために、まずは専門家に相談してみよう
実家の売却は、手続きや税金、感情面など多くの要素が絡む重要な決断です。特に相続の前後では必要な手続きや税制が大きく異なるため、早めの準備が後悔を防ぐ鍵となります。
家族との話し合いや思い出の保存などで心理的負担を軽減し、納得のいく形で手放せるよう心の準備も重要です。
売却を成功させるには、価格設定や不動産会社選びも非常に大切になります。まずは信頼できる会社に相談し、無料査定を受けることから始めましょう。
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