空き家の相続で発生する問題とは?トラブルの防止と損しない活用方法

空き家の相続で発生する問題とは?トラブルの防止と損しない活用方法
執筆者: 杉田悟

はじめに

近年、高齢化と少子化の進行により、住む人のいない家が放置され、そのまま相続の対象になるケースが多発しています。

空き家の相続は、ただ「家を引き継ぐ」と思いがちですが、数多くの問題やリスクが潜んでいます。災害や犯罪に巻き込まれる可能性も考えられるため、空き家の放置は大変危険な行為です。

本記事では、空き家相続で発生するトラブルと税金を解説します。空き家の活用方法を参考にして損しないための対策を始めましょう。

第1章 知らずに放置すると危険!空き家相続の問題とは?

全国の空き家は、高齢化や核家族化の進行により、実家を相続しても住まない・使わない選択が一般化しつつあり、空き家問題の根底には相続のあり方が深く関わっています。

空き家の相続は「誰かが使うまで放っておけばいい」と思いがちですが、放置することで多くのリスクが発生します。

まずは、空き家相続で発生する問題を詳しく見ていきましょう。

1-1 老朽化による倒壊リスクがある

誰も住まなくなった家は、急速に老朽化します。

湿気や風雨による劣化、害虫や動物の侵入で、数年も放置すれば倒壊寸前になるケースも珍しくありません。特に、木造住宅の場合は、シロアリやカビによる劣化が顕著で、わずか数年で住めない状態になることもあるでしょう。

もし、倒壊や建材の落下などで他人に怪我をさせた場合、相続人が損害賠償責任を負うことになります。

たとえ意図的に放置していたわけではなくとも、所有者としての責任は免れません。

1-2 近隣トラブルが起こりやすい

管理されていない空き家は、景観の悪化や害虫の発生、雑草の繁茂などによって近隣住民とのトラブルを招きやすくなります。

さらに、不法投棄や不審者の侵入といった治安の悪化にもつながり、自治体から指導が入る可能性もあるでしょう。

自治体から指導が入ると「特定空き家」に指定され、土地にかかる固定資産税の優遇措置が適用されなくなるなどのデメリットが発生します。地域での信頼関係が壊れるだけではなく、費用面でも大きな負担となるため注意しましょう。

1-3 管理義務・税金が発生する

相続した空き家には、たとえ使用していなくとも所有者としての管理義務と税金が発生します。

建物がある限りは固定資産税が課され、適切な管理を怠れば、特定空き家に指定されて税額が上がる恐れもあります。

誰も住んでいない物件に税金を払い続けるだけでも損といえるでしょう。

1-4 解体・処分費用が自己負担となる

空き家を処分するにはお金がかかります。

木造住宅の場合、解体費用は1坪あたり3〜5万円が相場です。広い家や老朽化が進んでいる場合は、数百万円の出費になることもあります。

解体・処分費用は原則として相続人が負担するため、相続した側にとっては大きな金銭的負担となりかねません。また、解体後の土地も更地になることで固定資産税の優遇措置が外れ、税額が増えるため二重の負担が発生します。

資金計画を立てずに解体に踏み切ると、思わぬ費用で経済的に困窮するケースもあるため、慎重な判断が必要です。

1-5 相続人の共有名義でトラブルになる

空き家を複数人で相続した場合、共有名義となり、意思決定が難しくなります。

「売却したい人」と「保有したい人」で意見が食い違うと、話が進まなくなりトラブルに発展する場合もあるでしょう。

また、持分の売買や第三者への売却には全員の合意が必要で、調整がつかないと時間と労力だけが消費されます。共有名義のトラブルは相続人の人間関係を悪化させ、兄弟姉妹間の不和や絶縁にまで発展するケースも珍しくありません。

第2章 空き家の相続で発生する税金

空き家の相続には、避けて通れない税金の問題がついて回ります。

空き家の相続を考える際は、事前にどのような税金がかかるのかを把握することが重要です。無計画に放置すると負担が重くのしかかってくるため、相続後は早めの対応が鍵となります。

では、空き家の相続で発生する税金を見ていきましょう。

2-1 相続税

相続税は、相続財産の総額が一定の基礎控除額を超えた場合に課税される税金です。

税率は取得する財産の額に応じて10%から最大55%と幅があり、相続財産が多いほど高い税率が適用されます。

空き家が都市部にある場合や、土地の評価額が高いと、それだけで課税対象になってしまうことがあります。評価額は「路線価」「固定資産評価額」などを基に算出され、現金化しづらい不動産でも評価が高ければ多額の税金が発生する点が特徴です。

相続税は小規模宅地等の特例や配偶者控除など、節税に役立つ制度もあるため、事前に税理士などの専門家に相談し、適切な申告と納税を行うとよいでしょう。

また、申告は相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内に行う必要があるため、迅速な対応が求められます。

2-2 固定資産税・都市計画税

空き家を保有している限り、必ず発生する税金が固定資産税と都市計画税です。

不動産の所有に対して毎年課税されるもので、たとえ使用していない空き家でも例外ではありません。

固定資産税は原則として課税標準額の1.4%、都市計画税は上限0.3%の範囲で自治体が定めた税率で課されます。建物が老朽化していても、評価額が下がらない限り税額が減るわけではないため注意が必要です。

相続後は空き家の現状を把握し、税金の負担をシミュレーションしておきましょう。

第3章 空き家を相続したあとにやるべきこと

空き家を相続したら、現状の確認と必要な手続きを速やかに行うことが重要です。

放置していると、固定資産税の支払いや近隣とのトラブル、老朽化の進行など、さまざまな問題が発生する恐れがあります。特に、築年数が古く管理が行き届いていない空き家は、被害の拡大を防ぐためにも早期の点検・管理が欠かせません。

では、相続後に取り組むべきステップを解説します。

3-1 登記の確認と名義変更の手続き

空き家の登記名義が被相続人のままでは、売却も処分もできません。

相続が発生したら法務局で登記簿を確認し「相続登記」の手続きを行いましょう。2024年からは相続登記の義務化が始まり、怠ると10万円以下の過料が科される可能性があるため、早めの対応が必要です。

相続登記には、被相続人の戸籍謄本、遺産分割協議書、相続人全員の印鑑証明などが必要で、手続きには一定の時間と手数料がかかります。

相続人全員の合意が調わない場合、遺産分割協議自体が長引くこともあるため、事前に話し合いや専門家への相談をしておくとスムーズです。

3-2 固定資産税通知書の確認

自治体から送られてくる固定資産税通知書をチェックし、税額や納付期限を確認して支払いをしましょう。

固定資産税通知書には土地と建物それぞれの評価額が記載されており、今後の運用方針を検討する際の参考になります。

また、納付を忘れてしまうと差押えや財産の競売などのリスクがあるため、内容を確認のうえ、忘れずに支払いましょう。

名義変更が完了していない場合でも、実質的な所有者に納税義務が生じるため、共有名義のケースでは誰が支払うか明確に決めておくことがトラブル回避につながります。

3-3 火災保険や地震保険の見直し

空き家でも自然災害や火災のリスクはあります。

現在の保険契約内容が空き家に適用されるか確認し、必要に応じて保険会社と契約の見直しを行いましょう。無保険のまま被害を受けると、すべて自己負担となってしまいます。

保険会社によっては空き家専用の保険商品を提供している場合もあるので、条件や補償内容を比較検討した上で、適切な保険に加入することが重要です。

万が一の場合の損害を最小限に抑えるために備えは怠れません。

3-4 空き家の状態をチェック

屋根や壁、基礎などの構造部分に劣化がないか、ゴミや不法侵入の痕跡がないかなど、定期的に空き家の現地確認を行いましょう。

必要であれば専門業者に点検や清掃を依頼し、状態の悪化を未然に防ぐことが望ましいです。特に、空き家は風通しが悪く、湿気やカビが発生しやすいため、建物内部の状況を必ずチェックする必要があります。

長期間放置された場合、想像以上に建物の傷みが進んでいることも多いため、活用する場合はリフォームも検討しましょう。

第4章 相続後の空き家はどう扱う?活用方法を解説!

空き家を相続したあとに放置すれば、税金や管理の負担が続きます。一方で、適切に活用すれば負担を軽減し、収益化することも可能となるでしょう。

活用方法には、それぞれにメリットと注意点があるため、物件の状態や立地、相続人の意向に応じて最適な方法を選ぶことが大切です。

では、代表的な空き家の活用手段を解説します。

4-1 空き家や解体した土地を売却する

空き家を売却する場合、条件を満たせば「被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例」が適用され、譲渡所得から最大3,000万円の控除が受けられます。

ただし、以下の3つの項目に当てはまることが条件です。

  • 昭和56年5月31日以前に建築されたこと。
  • 区分所有建物登記がされている建物でないこと。
  • 相続の開始の直前において被相続人以外に居住をしていた人がいなかったこと。

引用:No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例 / 国税庁

スムーズな売却のためには、物件の魅力を明確に伝える資料づくりや、不具合の修繕などの準備も欠かせません。

また、共有名義の場合は、全員の協同で売却手続きを行う必要があります。

4-2 親族・第三者への譲渡や寄付をする

空き家を親族に譲渡する、あるいは自治体やNPOなどに寄付する選択肢もあります。

上手く進めれば空き家を手放せますが、寄付を希望する場合は、受け取り先との事前相談が不可欠です。特に、自治体や公共団体への寄付は、受け入れ条件が厳しいことが多く、建物の安全性や立地、用途などが審査対象となることもあります。

親族に譲渡する場合も、事後トラブルを防ぐために贈与契約書を作成し、内容を明確にしておくことが重要です。感情的な問題が絡むこともあるため、第三者を交えた冷静な話し合いを推奨します。

4-3 リフォームして賃貸に出す

空き家をリフォームして賃貸物件にすることで、収益化が可能になります。

初期投資が必要ですが、需要のある地域であれば安定した家賃収入が見込めるでしょう。

また、賃貸に出す場合は、建物の耐震性や防火設備の確認など、入居者の安全確保が大前提となります。築年数や構造、周辺環境などを考慮し、専門家のアドバイスを受けながら進めるとよいでしょう。

4-4 空き家バンクを活用する

空き家バンクとは、自治体が運営する空き家のマッチングサービスです。

売却や賃貸を希望する所有者と、移住希望者などを結びつける仕組みで、地方移住の促進策の一つとして注目されています。

登録や相談は無料のケースが多く、気軽に活用できます。地域によっては補助金制度やリフォーム費用の一部助成が用意されていることもあり、経済的な負担を軽減しながら活用につなげることが可能でしょう。

物件の掲載は、写真や物件情報の詳細な登録が求められるため、あらかじめ資料を整えておくとスムーズです。

4-5 相続土地国庫帰属制度を利用する

2023年に施行された「相続土地国庫帰属制度」を利用することで、一定条件を満たした空き家付き土地を国に引き取ってもらうことが可能です。

建物の解体や管理の手続き、負担金の納付が必要ですが、相続人が今後一切の管理・費用負担から解放されるメリットがあります。

制度の利用には「境界が確定している」「抵当権等の権利が設定されていない」などの条件を満たす必要があり、審査に時間を要するため余裕のあるスケジュールを立てましょう。

第5章 相続人がいない空き家の行き先はどうなる?

空き家の所有者が亡くなり、相続人がいない、または全員が相続放棄した場合、その空き家は最終的に国に引き取られます。ただし、すぐに国の所有になるわけではありません。

まず、家庭裁判所に申し立てを行い「相続財産管理人」が選任されることが出発点です。相続財産管理人が、残された財産の調査・整理・債務の清算などを行います。

長年介護をしていた親族や内縁の配偶者などの「特別縁故者」がいる場合は、管理人が財産の清算報告を提出したあと、家庭裁判所の判断により一部の遺産が分与されるケースがあります。

また、他に共有者がいればその方に帰属する可能性があり、最終的に誰にも引き継がれない場合、財産は国庫に帰属となる順番です。

長期的な手続きになるため、あらかじめ相続への意向を整理しておくことが望ましいでしょう。

5-1 相続放棄してもしばらく管理責任が残る

相続放棄をすれば一切の責任から解放されると思われがちですが、実際には家庭裁判所で相続放棄が認められるまでの間、相続財産を管理する義務があります。

また、相続放棄後であっても、その財産を居住や管理などで占有している場合には、次の管理者が決まるまで引き続き管理義務を負うとされています。

放置すれば他人に被害が及ぶ可能性があり、損害賠償を請求されるケースもあるため注意が必要です。例えば、建物が倒壊しそうな場合や、不審者の侵入によって近隣トラブルが発生した場合は責任が問われることがあります。

相続放棄をする予定であっても、速やかに家庭裁判所に申述し、決定が下るまでは最低限の管理を怠らないようにしましょう。

放棄の意思表示だけでは法的効力がなく、正式な手続きを完了させることが重要です。

5-2 相続財産清算人の選任には予納金を払わなければならない

相続人が不在の場合、相続財産の清算は裁判所が選任した「相続財産清算人」によって行われます。その際、申立人は20万円~100万円程度の予納金を裁判所に納める必要があるため、手続きにかかるコストや期間の負担も小さくありません。

申立てを行う際は、法的手続きや費用の全体像を事前に把握し、可能であれば弁護士や司法書士のサポートを受けると安心です。

まとめ:空き家の相続問題は早めに動くことで回避できる!

空き家の相続には、思いのほか多くの問題と負担が潜んでいます。

相続人同士の意思の不一致や老朽化による安全リスク、相続税や固定資産税といった経済的な負担など多岐にわたる課題があります。

しかし、空き家の相続問題は早めに動くことで回避または最小限に抑えることが可能です。まずは登記や税務の確認、空き家の現状把握を済ませ、将来的な活用や処分方法を検討していきましょう。

必要に応じて税理士や司法書士、不動産会社など専門家の力を借りることで、よりスムーズで損のない相続対応が実現できます。

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この記事の執筆者

杉田 悟(すぎた さとる)

杉田 悟(すぎた さとる)

株式会社あんしんリーガル 宅地建物取引士/管理業務主任者/競売不動産取引主任士

長年の実務経験を持ち、特に相続や不動産登記に関する専門性が高い。一般の方にも分かりやすく、正確な情報提供をモットーとしている。

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